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捕鯨論説・小説・絵本のサイト/クジラを食べたかったネコ

── 日本発の捕鯨問題情報サイト ──

(初出:2009/5)
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捕鯨推進は日本の外交プライオリティ№1!?
 ──IWC票買い援助外交、その驚愕の実態──

(1)水産ODA──アナクロな札束外交の象徴
(2)捕鯨支持国とそれ以外の国との間で見られる顕著な〝援助格差〟
(3)日本に捕鯨支持という〝踏絵〟を踏まされる開発途上国
(4)捕鯨援助で本当に利益を得ているのは誰か
(5)補足:各捕鯨支持国の解説

(2)捕鯨支持国とそれ以外の国との間で見られる顕著な〝援助格差〟
■総額600億円を越える援助が支持国へ

 前回取り上げたODAの歴史と現状を踏まえたうえで、いよいよ本論に移ろう。
 いくら国益優先、戦略志向といっても、言うまでもなく外交にはさまざまな要素がある。正負を合わせた歴史的関係、地政学上のバランス、貿易・投資や人的交流の度合、日本が必要としている資源の保有量とその将来性等々。多様で個性的な国々があり、日本や他の諸外国との間で複雑な関係を結んでいる以上、捕鯨という小さなシングル・イッシューを切り口に比較してみたところで、差異は埋もれてしまい、明白に偏った傾向など見られるはずがない──筆者もそう思っていた。ところが、分析してみた結果は驚くべきものだった。
 ここでは、水産ODA以外も含めた捕鯨支持国向けのプレミアム付き援助を〝捕鯨援助〟と名づけ、グラフを使って視覚的にその実態を明らかにしたい。
 これから示すデータは、今年2月に発行された『政府開発援助(ODA)国別データブック2008』(外務省国際協力局編)及び外務省のホームページに掲載されている最新のデータをもとにしている。一部のデータについてはなぜか外務省の資料に記載がないため、一次ソースである世界銀行から直接取ってきたものである。

「外務省ホームページ:資料・統計」
「Data& Statistics」(世界銀行、リンク切れ)

 本記事では、OECD(経済協力開発機構)の組織で援助供与国22カ国とECから成るDAC(開発援助委員会)がGNI(国民総所得)に基づき分類し、そのうち日本が現在実際にODAを供与している援助受取国145カ国を、「捕鯨支持国」31カ国と「それ以外の国」114カ国の2つのグループに分けた。捕鯨支持国とそれ以外の区分はウィキペディアに準じる。韓国、アイスランド、デンマーク、ノルウェー、ロシアはDACリスト外なのでここには含めない。ドミニカとソロモンは2006年の《セントキッツ宣言》に賛成票を投じた後、捕鯨支持から姿勢を転換したが(前章とウィキペディア参照。日本政府はまだ味方のつもりでいるようだが……)、ODAの推移を見るため、ここでは捕鯨支持国に分類する。
 ODAは日本に限らず地域間で金額その他の傾向に差があるため、2つのグループを外務省/DACに倣い、東・南アジア、中東、アフリカ、中南米、大洋州、その他の地域の6つの地域毎に分けて比較した。中東の捕鯨支持国はモロッコ1国のみ。「その他の地域」には捕鯨支持国のない中央アジアと欧州をまとめた。南アジアにも捕鯨支持国はないが、水産ODAの援助対象となっている国があるので東アジアと一緒にした。「その他の地域」への水産ODA供与はゼロである。
 日本が援助を行っている捕鯨支持国は<表1>のとおりである。水産ODAの供与額は、1994年度から2008年度(会計年度)までの累計である。

表1:日本のODAの援助対象となっている捕鯨支持国

 捕鯨支持国に対しては多額の水産ODAが投じられている。1994年度から2006年度までの間に各国に供与された水産ODAの総額は977億円、そのうち6割近い564億円が捕鯨支持国に渡っている。対象国と金額のリストは、以下のGPJの報道発表資料の5ページ目に掲載されている。
「日本政府による捕鯨票買いチェックリスト」(2007年2月2日、GPJ、リンク切れ)
 GPJの2007年の資料に付け加える意味で、最新の2007年と2008年に水産ODAが供与された国と金額を、外務省のデータからリストアップしたのが<表2>である。ピンクに着色した部分が捕鯨支持国。赤字の部分については後ほど詳しく述べる。

表2:過去2年間の水産ODAの実績

 15年間の水産ODAの総額は1,065億円、このうち捕鯨支持国分が652億円である。15年間では約6割強だが、最近の2年間では7割以上を捕鯨支持国向けが占め、比率が上がってきていることがわかる。離反したドミニカに対して引き続き行われている新規援助は、政府部内の日本支持派に対する梃入れのつもりであろうか?

表3:水産ODA調査実施予定案件(2009/3)

 <表3>は現在調査が進められており、新年度以降上がってくるであろうと思われる案件である。出所はJICAホームページ。

「無償資金協力 調査情報」(JICA、リンク切れ)

 現在進行中の調査案件5件は、見事に捕鯨支持国で占められている。アンティグア・バーブーダとガボンは2004年以来、グレナダは2002年以来の水産ODA案件。マリは2004年にIWCに加盟、すぐにODAを供与するつもりで2005年に予備調査が開始されたが、“何らかの事情”で中断されていたのだろう。実施に移されれば待望の初供与となる。(1)で取り上げた外房捕鯨見学会への参加、6月の年次会合への同国出席の可否、今回の予備調査の開始との間には“何らかの関連”があるのだろうか? カンボジアは2006年にIWCに加盟し、2009年3月のローマ中間会合でも積極的に日本を援護したが、これで東アジアの捕鯨支持国として初の水産ODA受取国となるだろう。

■捕鯨援助の特徴その1:水産ODAの額と比率

 続いて、GPJの資料とは別個に筆者が統計を取ったグラフを示す。ODA全体との比較のため、外務省のデータブックに記載されているOECD/DAC資料に合わせ、期間は1998年から2007年までの10年間とした。単位もドルに換算してある。日本のODAは円建で行われるが、OECD/DACの資料は年毎に定められたDACレートに基づきドル単位に換算されており、そちらに合わせることにした。GPJのリストでは含まれていても、1998年以降に水産ODA供与実績がない国は、ここでは対象外とした。

グラフ1:水産ODAの累計額(1998-2007)

グラフ2:ODA全体に占める水産ODAの割合(1998-2007)

 <グラフ1>は、水産ODAの対象国について、各地域毎に水産ODAの10年間の累計額の1カ国当りの平均をとり、棒グラフの形で比較したものである。地域の下のカッコ内の数字は、水産ODAを受けた国のうち、捕鯨支持国の数(左)とそれ以外の国の数(右)である。10年間で見ると、全世界では両者の数がちょうどぴったり21カ国ずつになったのだが、1カ国当りの総額では捕鯨支持国の平均1,700万ドルに対してそれ以外の国の平均は800万ドル弱と、2倍以上の開きがあることがわかる。モロッコ1国のみの中東の差がとくに大きいが、モロッコの累計額3,700万ドルは水産ODA受取国の中でダントツのトップである。2位は外務省が西アフリカにおける「日本の代弁者」と頼みにするギニア、3位はドミニカ。中南米と大洋州もやはり2倍を越える差がある。
 <グラフ2>は、同じく水産ODA受取国について、10年間の水産ODAの合計額が当該国への日本のODA全体に占める割合を、円グラフにして示したものである。青色が水産ODA分。中南米と大洋州の捕鯨支持国で特に水産ODAの比率が高く、中南米では6割以上と飛び抜けている。セントクリストファー・ネーヴィスとセントビンセント・グレナディーンに至っては、なんと9割以上が水産ODAである。平均では9.4%に対して0.87%と10倍に上り、捕鯨支持国とそれ以外の国との間で際立った差が表れた。
 水産ODAの問題点は、これまでにもGPJなどNGOが指摘してきた。今度は、水産ODA以外も含めたODA全体と捕鯨支持国との関わりに焦点を移そう。

■捕鯨援助の特徴その2:贈与率の高さ

 援助条件の緩やかさを示すグラント・エレメントと呼ばれる指標がある。実を言うと、日本のODAはこのグラント・エレメントが非常に低い。ODA白書に示されるとおり、DAC22カ国中で最下位、数字の開きも圧倒的で、なんとも不面目な有様である。現在では西欧諸国の多くでグラント・エレメントは100%、すなわちすべて無償援助となっている。ちなみに、対GNI比でも日本は下から3番目である。

「ODA白書2008年版/日本の国際協力参考資料集 図表68:DAC諸国の贈与率」

 日本のODAに、途上国に返済義務を負わせる借款が多いのは、かねてから指摘されてきたことである。有償援助の多い日本が例外的に額の大きな無償援助を供与する場合、「本来なら返してもらうところだが、タダでくれてやっているのだ」という言外のメッセージが添えられているわけだ。過去の水産ODAはまさにその典型であった。

グラフ3:ODA全体に占める贈与の割合(全累計)

 <グラフ3>は、これまでに日本から被援助国に供与されたODAの全累計額における、贈与(無償資金協力及び技術協力)の割合を示したものである。青色が贈与部分、残りの黄色の部分は円借款ということになる。カッコ内の数字は、各地域の捕鯨支持国とそれ以外の国の数である。全世界には中央アジアと欧州を含めてある。
 モロッコ1国の中東のみ例外的に逆転し、アフリカではほぼ同率だが、残りの地域では捕鯨支持国の贈与率がそれ以外の国を大きく上回っている。中南米と大洋州ではほぼ100%。全世界で見ると、捕鯨支持国以外への無償援助はおよそ半分だが、捕鯨支持国への援助は贈与が9割近くに及んでいる。
 注目すべきは東・南アジアである。この地域の捕鯨支持国は3カ国だが、いずれも水産ODAは供与されていない。水産ODAの代わりに、無償援助の大盤振る舞いという近隣諸国に比べた破格の厚遇が、捕鯨支持のプレミアムとなっているわけだ。むしろ、この待遇格差をもってIWCでの日本支援を要請したというのが正しい見方であろう。
 また、比較的所得の高い国に対しても、貸付ではなく無償での援助が行われているのが捕鯨援助の特徴である。そのことが捕鯨支持国全体の無償比率を押し上げている。

■捕鯨援助の特徴その3:所得グループの差──豊かな国への無償援助

 前項で述べたとおり、所得水準の高い国に対する援助は、捕鯨支持国以外では通常円借款に比重が移っていくにも関わらず、捕鯨支持国では無償援助の比率が非常に高い。一体なぜなのだろうか?
 実は、無償資金協力には条件が付いている。前回述べた民主化・人権問題などガバナンスに関する基準のほか、所得水準の低い国に限るという原則があるのである。庶民の感覚からすれば、より貧しい国々に無償援助を行うのは当然のことであろう。2006年度の一般プロジェクト無償については、1人当りGDPが1,575ドル以下、文化無償については5,685ドル以下が目安となっている。ところが、水産ODAに限ってはこの規定がない。だからこそ、所得水準の高い国に対しても堂々と高額の無償援助を振る舞えるのである。
 DACでは援助対象国を1人当りGNIに応じて4つのグループに分類している。

「ODA白書2008年版/日本の国際協力参考資料集 所得グループ別配分(DAC分類) 図表19」
「ODA白書2008年版 DAC援助受取国・地域リスト」

 捕鯨支持国とそれ以外の国との所得グループの割合を、次の<グラフ4>で見てみよう。

グラフ4:援助対象国の所得グループの割合

 LDC(後発開発途上国)は国連に認定された最も開発の遅れた国、LIC(低所得国)は1人当りGNIが825ドル以下の国、LMIC(低中所得国)は同じく826ドル以上3,255ドル以下の国、UMIC(高中所得国)は同じく3,256ドル以上10,065ドル以下の国である。GNIの数値は2004年の調査による。HIC(高所得国)は1人当りGNIが10,066ドル以上の国であり、日本の援助対象国の中で該当するのはサウジアラビア1国。3年間HICに該当した国はDACリストから外され、被援助国を〝卒業〟することになっている。
 捕鯨支持国とそれ以外の国とを比べてみると、明らかに異なる傾向が表れた。捕鯨支持国はUMICとLDCの2群に大きく偏っているのである。ここではUMICとしたが、実は中米カリコム(カリブ共同体)の捕鯨支持国アンティグア・バーブーダは、2006年に1人当りGNIが11,050ドルに達し、HICの仲間入りを果たした。同年の日本のODA供与先となっているHICは、移行期間中のサウジアラビアとこのアンティグア・バーブーダただ2国のみである。
 アンティグア・バーブーダが現在のDAC援助受取国の中で群を抜いた高所得水準にあるのは、もちろん捕鯨とは何の関係もない(日本の水産ODAそのものを除けば)。オンラインカジノ事業の推進、2007年のクリケット・ワールドカップの際の大型建設業による活況、さらには1980年代からタックス・ヘイブンとして保険・金融を中心にオフショア・ビジネスを展開、規制を嫌う海外投資家を呼び込んだおかげである。巨額詐欺事件で米証券取引委員会に摘発された大富豪が資産を移した本拠地として最近ニュースにもなった。2005年のHDI(人間開発指数)は0.815、東欧の〝卒業国〟ルーマニアと同水準である。外務省は「経済基盤は脆弱」としているが、実質的に先進国の小国とほとんど変わらないレベルだろう。現在UMICに分類される他のカリコム諸国にとっては、目指す鏡となる国に違いあるまい。もっとも、金融立国の看板を掲げた捕鯨国アイスランドと同じく、世界同時不況の煽りをもろに受けており、今後再びUMICに転落しないとも限らないが。
 外務省の資料だと、アンティグア・バーブーダの各種指標はほとんど空白で情報がない。はっきりしているのは、援助の大半が日本からの水産ODAで占められていることだ。<表3>で示したように、すでに次の案件もゴーサインが出るのを待ち構えている。仮にこの国がDACリストを卒業しても、日本はIWC加盟分担金を十分に支払う能力がある〝同盟国〟を優遇し、当面の間技術協力の形態で無償援助を続けるか、ODAより目立たないOAなどの形で公的資金を提供し続けるのではないか。
 他に所得の高い捕鯨支持国としては、石油輸出によりアフリカ諸国の中では例外的にUMICに位置付けられ、一般無償非適格国のため専ら水産ODAと技術協力のみ供与しているガボン、燐の輸出で産油国並の所得水準を誇っていたナウル(燐鉱石が枯渇してからは財政が逼迫しているが)などがある。
 多くのアフリカ諸国では、先進国による援助の効果も十分に上がらないまま、むしろ貧困と飢餓、環境破壊がさらに悪化しているのが現状である。本当に救いの手を必要としている国と、日本から高額のODAを受け続けてトントン拍子で先進国の仲間入りをしつつある国と、一体どちらにより多くの無償援助を振り向けるべきだろうか? いまのODA配分は、国民の目から見てバランスが取れているといえるだろうか?

■捕鯨援助の特徴その4:債務免除で優遇

 捕鯨支持国に目立つもう一つのグループ、LDCについてはどうだろうか? 所得水準の低い国に対する援助のキーワードは、HIPC(重債務貧困国)と債務救済措置である。
 HIPCとは、世界で最も貧しく重い債務を背負っている国としてIMFに認定された国である。2008年現在41カ国あるが、大半はもちろんアフリカ諸国である。前回述べたとおり、HIPCに対しては先進国による国際的な債務救済措置が講じられることになった。これを拡大HIPCイニシアティブと呼んでいる。HIPCに認定された債務国は、世銀/IMFに経済社会改革プログラムとその実施実績を提出、債務返済能力を勘案したうえでDAC諸国と国際機関の救済が行われる。2つのステップがあり、DP(決定時点)に到達したら予備的な救済が行われ、さらにCP(完了時点)に達したと認められれば最終的に債務残高の9割削減が実現することになる。
 債務救済措置には、債権国が債務の一部を放棄する債務免除と、返済期限を先送りする債務の繰延・支払猶予措置がある。また、自国のODAではなく国際機関分の債務を肩代わりしたり、商業債務の保険を引き受ける形の非ODA債権に対する減免措置もある。
 日本は2002年度まで、債務免除相当分を無償援助の名目で提供する債務救済無償の手法を取ってきた。しかし、借金を帳消しにするだけで無償の援助実績に含めることに対しては、当然ながら批判もあった。債務救済無償に関しては、被援助国側に使途についての報告を求めることになっているが、同形式最後の2002年に行われた救済無償では、20件のうち1件しか報告が返ってこなかった(全体では61件)。

「債務救済無償資金協力に関する記事について」(2007年4月27日、外務省)

グラフ5:日本の円借款累計額に対する債務免除額の割合

 さて、<グラフ5>は、日本に債務免除を受けた国の、円借款の総額に対する免除額の比率を示したものである。期間は、債務救済無償から他のDAC諸国と同じ債務救済方式に切り替えた2003年度から2007年度まで。ソースは外務省だが、概算値でデータが粗いため、プレスリリースをひとつひとつ確認してまとめた数字である。日本が救済を引き受けた非ODA債権は分母には含めていない。青と水色の部分を合計した割合が、金額上の債務に対する免除率ということになる。後に分離したセルビア・モンテネグロに対する債務免除はここでは除外する。

「我が国の公的債権放棄実績(概算値)」

 一見すると、捕鯨支持国の方が免除率が低いかに見える(左側と真ん中の円グラフ)。免除率が高く、免除総額も突出して大きな2つの国があるためだ。それはイラクとナイジェリア。イラクについては説明の必要もあるまい。ナイジェリアはアフリカ最大の産油国だが、累積債務の総額が400億ドルととんでもないことになっていたため、2005年のパリクラブにおいて先進国の大幅な債務削減が合意された経緯がある。日本は2回に分けて一定額を先に返済させるなど、事細かな注文を付けている。この2国はともにHIPCではない。
 イラクとナイジェリアを除くと(右側の円グラフ)、やはり捕鯨支持国のほうが免除率が高いという特徴が浮かび上がってくる。免除率が特に大きいのは、日本による円借款累計額の2倍を越える対外債務の肩代わりを引き受けたタンザニア、5割超のカメルーンとベナンである。
 非ODA債権の比率が高いのは、タンザニアコンゴ民主共和国である。コンゴ民主共和国への債務救済措置は、債務免除ではなく債務繰越・支払猶予なのだが、対象債権の一部について元本の67%ないし50%を削減するなど、同じ救済措置を取っている他の国々より厚遇している。
 債務救済措置の実施年と、これらの国々のIWC加盟年が近接しているのも面白い。アフリカの捕鯨支持国14カ国のうち9カ国が日本から債務救済措置を受けている。それらの債務救済の多くは、2002年のパリクラブでの合意に基づき2004年に実施されているものが多いが、アフリカ諸国のIWC加盟年は2005年前後に集中している。セントキッツ総会に向けた票集めには絶好のタイミングで、水産庁の担当者も願ったり叶ったりだったろう。上記のとおり、2007年に637億円もの債務免除措置を受けたタンザニアは、翌2008年にIWCに加盟した。非常にわかりやすい。
 それ以外の国と比べた場合の捕鯨支持国への債務免除の優遇ぶりについて、いくつか個別の例を挙げよう。
 ひとつは2004年に17.9億円の債務免除を受けたトーゴ。免除率自体は16%と、他の国に比べ低い数字である。だが、実はトーゴは債務救済の条件となるDPをまだクリアしていない。DP未達成のHIPCは8カ国あるが、日本が債務免除を行っているのは、このトーゴ以外では南アジアのネパール(2004年)のみである。トーゴに対しては、2008年にも追加で42億円分の債務支払猶予措置が実施された。
 まだDPに達していない捕鯨支持国には、もう1国コートジボワールがある。この国は1人当りGNIが880ドルで他のHIPCより所得水準が高いうえ、政情不安もあってそう簡単にオマケはできない。しかしそれでも、同国に対しては2003年に、免除ではなく債務繰延・支払猶予の形で42億円及び15億円の救済措置が講じられている。これもコートジボワールがIWCに加盟する前年のことである。きちんとIWC詣でさえすれば、近々免除を含む救済措置が取られないとも限らない。
 もうひとつのケースは、アフリカ以外の捕鯨支持国で唯一債務免除を受けているラオスである。こちらも免除金額は約6億円、免除率は3%程度で、数字自体は小さい。実はラオスは以前DP未達成のHIPCだったのだが、2005年に拡大HIPCイニシアティブの適用を自ら辞退してしまったのである(HIPC認定には当該国の同意が必要)。
 ラオスとトーゴを除外すれば、残りの捕鯨支持国への債務免除率はさらに上がって約68%となり、債務のほぼ3分の2に相当する額(利子を除く)が免除された計算になる。サミットの合意に基づく債務救済であっても、捕鯨支持国への救済が先行して行われていることを、数字は示している。

■捕鯨援助の特徴その5:調整・協調なしの唯我独尊援助

 前回「ODAの現在」で述べたように、今日では援助の効率性、公平性、公正性を確保するために各ドナー間で緊密な連携が図られるようになってきている。援助調整・協調の重要性については、日本の外務省も白書やデータブックなどで自ら強調しているところである。例えば、データブック2008の「アフリカ地域に対するODAの考え方」(389ページ)では次のように謳われている。

  アフリカに対する協力の実施にあたっては、案件の発掘から実施に至る各段階でのきめ細かい配慮、的確なフォローアップ等を図る必要がある。そのためには、歴史的にもアフリカと関係が深い欧米諸国や、アフリカ各国にネットワークを有する国際機関との連携をできる限り図ることも重要である。そのような観点から、我が国は、TICAD(アフリカ開発会議)の基本哲学であるオーナーシップとパートナーシップの考え方に基づき、多くのアフリカ諸国でPRSP(貧困削減戦略文書)に基づく他の援助国との連携の下、整合性のとれた援助の実施に努めている。

 総論としては誰も異存はなかろう。
 ところが、そうした国際的な援助協調の流れに逆行しているのが、水産ODAを柱にした日本の捕鯨援助外交である。
 データブックには、各国毎のODA実績のページに「4.当該国における援助協調の現状と我が国の関与」という章が設けられ、被援助国政府及びドナーによる調整・協調の動きと、日本がそこにどのような形で加わっているか(今後加わる可能性も含む)について述べられている。多いものでは半ページ以上の紙数が割かれている。
 しかし、一部の国については、項目自体がすっ飛ばされているものもある。特記すべき事柄がまったくない、すなわち援助協調が行われていないことを意味するのだろう。「我が国も適宜参加している」といった1行のみ記載された国(ウズベキスタン)、「特に動きはない」(イラン、ウルグアイ、チリ)、「(諸事情により)援助協調は行われていない」(ソマリア、キューバ)といった記述が見られる国もあるので、他のドナーの動向に一切注意を払っていないが故に、そもそも把握すらできていないのかもしれない。いずれにしろ、日本が参加していないことだけは間違いない。
 数えてみたところ、援助協調欄がない国は全部で51カ国、そのうち15カ国は捕鯨支持国であった。捕鯨支持国のうちの約半分である。他の捕鯨支持国についても、「主要ドナー主導の援助協調は行われていない」(モロッコ)、「教育分野を除いて援助協調は具体化していない」(ギニア)、「2002年9月以降の象牙危機のため、主要ドナー間援助協調は全く行われていない」(コートジボワール)、「目立った援助協調の動きはない。パラオはPRSPを策定していない」(パラオ)、「活発な援助協調は行われていないが、必要に応じ米国など他ドナーの協力も視野に入れる」(マーシャル)という具合で、捕鯨支持国のうち3分の2は援助調整・協調をまったく行っていないか、非常に遅れているのである。
 そうした国々では、互いの援助をより効果的に振り向けられるよう各援助国が一致協力することをせず、それぞれバラバラに動いているわけだ。言い直せば、農水官僚や国会議員も公然と標榜するODAの政治的〝活用〟を、日本の好き勝手に進めやすい環境にあるといえるだろう。
 具体例を挙げよう。ギニアは捕鯨支持国の中でも「特にIWCにおいては、〝西アフリカでの日本の代弁者〟となっている」と日本が頼りにする強力な援護国である。前述したように、水産ODAの供与実績は約2,800万ドルで第2位、支給回数も15年間のうちに7回と多く、他のアフリカ諸国に対して日本から多額の無償援助を引き出すお手本を示しているといえる。
 そのギニアの欄、データブック477ページの「留意点」の項目には奇妙なことが書かれている。

 ギニアで活動する多数のドナーの中でも、援助の質・効率性等を理由に、ギニア国民の我が国への信頼は特に厚く、特に昨今はEU・世界銀行からの支援量が目減りしている状況で、ギニア政府からの我が国支援への期待も大きい。他方で、政府の慢性的予算不足が行政実施能力の低下を招き、援助効率は必ずしも高くない。かかる状況では、支援が必要な優先項目を絞りつつ、我が国が抱える多様なスキームを上手に組み合わせ、確実な裨益効果を確保することが重要である。

 ギニア政府が日本の援助をかなりアテにしているということはよくわかるが、これではまるで、日本は自国のプレゼンスを高めることしか頭にないかのようである。もし、米国やフランスなど、ギニアへの援助額が日本より多いDAC諸国からの援助の質・効率性に問題があるのなら、援助モデル国となっている他のアフリカの国々と同様に援助協調を活発化させ、その中で日本が効率的な援助について情報を提供するのがスジであろう。もっとも、ギニア向けに必要なのはむしろ財政支援のように思われる。おまけに、この文脈からは「援助効率が高いと先方には思われているが、実は(他の国への援助より)低い」と受け取れ、ずいぶん矛盾した記述となっている。ギニアのページは、ほぼ間違いなく農水省からの出向者が書いたものだろう。
 一方、捕鯨支持から反対へと姿勢を転換した大洋州のソロモンでは、「ドナー間の情報共有や意見交換等が活発に行われ、NZはセクター別財政支援を行い、オーストラリアと世銀は保険分野でSWAPsを導入」など、先進的な援助モデル国となりつつある。もちろん、日本も〝除け者〟にされてなどおらず、「他のドナーとの協調を図っている」。これこそあるべき援助協調の姿だろう。
 前項で取り上げた債務放棄に関しては、ガーナやザンビア、ホンジュラスなど、捕鯨支持国以外で債務免除の額と比率が高い国もある。これらの国々への援助では、DAC諸国間で足並みをそろえる活発な援助協調の動きが見られる。それに対し、トーゴやラオスのケースのように、拡大HIPCイニシアチブに沿わず日本政府が独自に債務救済を行う際には、パリクラブの合意ではなく、1978年とずいぶん昔のUNCTAD(国連貿易開発会議)の決議が大義名分として引き合いにされる。


(3)へとつづく

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