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捕鯨論説・小説・絵本のサイト/クジラを食べたかったネコ

── 日本発の捕鯨問題情報サイト ──

(初出:2008/5)

鯨肉横流し事件の全貌解明を
──シー・シェパードに文句をいえない不祥事まみれの調査捕鯨──

 5月15日、環境保護団体グリーンピース・ジャパンが記者会見を行い、日本の調査捕鯨の事業主体である共同船舶従業員によって、大量の鯨肉が横流しされていたことを暴露しました。その量は、今期の調査捕鯨による分だけでも合計で1トンという半端でない数字。しかも、畝須と呼ばれる一部の鯨肉愛好家にとっては垂涎の的らしい高級部位が中心で、当事者たちは自宅に宅配便で配送した後、地元の料理屋などに転売していたとみられます。横流しを行っていたとされる12人の社員は、いずれも全員古株のベテラン、製造主と呼ばれる解体作業に従事する職種で、危険な仕事を引き受ける熟練職人としての自負があるのでしょう。その特権階級としての立場を利用して、自分らの小遣い稼ぎに利用していたのでしょう。乗船歴に従って位の高い順に高級品を割り当てていく序列まであるとのこと。こうした行為は、過去20年間にわたり続けられてきた調査捕鯨操業において常態化していたとの証言も。詳細は以下のGP発表のレポートをご参照。

グリーンピース告発レポート「奪われた鯨肉と信頼」

 調査捕鯨事業に対しては、直接の補助金と研究委託費、及び海外漁業協力財団からの助成金という形で、毎年20億円は下らない莫大な税金が投じられています。仮にも公的な科学調査を名目とする事業であれば、そのような営利目的による私物化が行われること自体言語道断です。国際捕鯨取締条約で調査捕鯨による副産物の売却が認められるのは、調査費用を捻出するための有効活用という前提があればこそです。共同船舶側は「商業捕鯨時代からの慣行で問題ない」と開き直っていますが、調査捕鯨が実質的に商業捕鯨と何一つ変わらないものであることが、これで明確に実証されたといえます。国の委託による調査事業に切り換わった時点で、そのような業界の内輪の風習は廃止されるべきだったのです。もともとPRコンサルタントが発案した伝統文化のキャッチフレーズを繰り返し唱えているうちに、強力な自己暗示にかかってしまい、自分たちは「何をやっても許される」と思い込んでしまったのでしょう。個々の従業員も。組織としての共同船舶も。事実を知っていたはずなのに、馴れ合いの関係で見て見ぬふりをしてきた鯨研にも。横流しを行った個人にとどまらず、社会的公正性の感覚がすっかりマヒしてしまった組織全体に重大な責任があります。
 共同船舶社員による内部告発では、ベールにすっぽりと覆われ国民の目から隠されてきた調査捕鯨事業の驚愕の内幕が次々と明るみにされました。商業捕鯨時代も行われていたものの、当時とはまた異なる動機によって、捕殺したクジラの肉を少なくとも毎年7トン以上洋上で投棄していたこと。さらに、日本の調査捕鯨の科学的正当性を示す最後の砦であったはずのランダム・サンプリングが、JARPAⅡの増産以降無視されるようになったこと。捕獲したクジラの組織に多くの病変が見られること(筆者としては、カドミウム汚染との関連が非常に気がかりです)など。これらの事実は、IWC及び各加盟国に詳細に報告される必要があります。まもなく始まるサンチアゴ総会では、緊急の最優先課題とされなければなりません。科学的根拠のきわめて乏しい、さりとて条約に時代に適合しない部分があったために中止勧告以上の対応をとれなかった調査捕鯨の妥当性について、改めて精査されるべきです。鯨肉の横流しと洋上投棄は、鯨体計測データなど調査内容そのものが改竄・捏造されている重大な疑義を生じさせるものでもあるのですから。
 また、今度の一件は海外のメディアを通じて世界中の市民に周知されるべき事柄です。これはもはや、〝価値観の違い〟などという言い訳が通用する次元をはるかに超えた、国家ぐるみの詐欺行為に他なりません。日本大使館に抗議行動をした少女を逮捕したイギリス、「妨害活動をしたシー・シェパードを捜査しろ」との日本政府の要請に応じたオランダやオーストラリア、そして米国は、ただちに日本政府に対して公正・公平・厳格・迅速な刑事捜査を要求すべきです。国際機関による中止勧告を無視して公海である南極海で強行された調査捕鯨と密接に関連する犯罪行為である以上、ロス疑惑や沖縄米兵犯罪同様、日本一国の内政上の問題では済まされません。
 シー・シェパードの妨害行動についてあれほど長時間同じ映像を繰り返し流し、紙面を割いたテレビ・新聞各社が、今回のGPの告発については一部紙を除き短く触れるだけにとどまっている点は、改めて日本のマスメディアの偏向ぶりを示すものといえましょう。中には、GP側の指摘をプロのジャーナリストとして検証する努力を放棄し、水産庁・共同船舶の大本営発表を鵜呑みにして、GPによる物証確保の違法性をことさら強調する新聞すらあります。マスコミが調査捕鯨の杜撰さにこのまま目をつぶり続けるならば、警察当局も腰を上げないか手抜きをして、実態がうやむやにされたまま放置されることになりかねません。南極の野生動物の肉のみならず、税金までも食い物にする連中がほくそ笑むだけです。もし、日本の国民が、国策捕鯨の抱える大きな矛盾に対し、SSのパフォーマンス以上の関心を抱こうとしないのであれば、この際日本政府・マスコミが無視できなくなるほどの強力な外圧による荒療治もまたやむを得ないかもしれません。
 正直筆者としては、海外に拠点を置く国際組織であり、主張や戦術への認識も異なるGPに対しては距離を置きたいところです(日本人受けを狙って鯨肉試食までやるところですし)。GPの掲げる直接行動は、メディアと市民の一定の理解・協調があって初めて有効なものであり、業界のマスコミ・文化人抱き込み戦略が、屈折したナショナリズムと呼応して異常なまでに奏効してしまった特殊事情下にある日本では、なかなか効力をもちません。今回のアクションに関していえば、警察当局に資料としてすべて提出している以上、弁護士が指摘するとおり百%証拠保全のためで、法的には何ら問題ないはずです。しかし、もともと国民に直接行動を評価する素地のないところへもってきて、明らかに捕鯨業界よりに偏ったマスコミによって窃盗行為として刷り込まれ、GPに対する風当たりのみが強まりかねない状況です。本来であれば、内部告発の受け皿として機能しなければならないはずの監督官庁の水産庁も、談合や手抜き道路工事など他の社会問題と同様に取材を通じて実態に迫るべきはずのマスコミも、逆に業界に内通して封じこめに手を貸しかねない中では、告発者も訴えようがなく、GPの大胆な証拠保全措置は唯一可能なものでした。海外のNPOに頼らなければならないのは恥ずかしい限りですが、SSのパフォーマンスと違い、ともかくこの件に関しては、むしろ日本人としてGPを全面的に擁護するしかないようです。本当は、もう1件泳がせた分を張っておき、料理屋に受け渡す現場を写真などで抑えることで、聞き取り取材のみでなく駄目押しの証拠固めができればなおよかったのですが……。及び腰にならず協力を買って出てくれるマスコミさえいれば、これほどの特ダネはなかったはずですし。
 業務上横領の疑いに対する地検の捜査は早急に進めなければなりません。それまでに、証拠隠滅・口裏合わせのための時間稼ぎが行われかねないからです。現に、水産庁の問合せに対し共同船舶側は、社内調査の結果「同僚から譲ってもらっただけで横流しではない」と報告しています。これは「給料から天引きされる公式の譲渡分はすべて冷凍品」という告発者の証言や、事前のGP側の質問に対して寄せた土産そのものの否定とは真っ向から矛盾するものです。GPに対する事前回答が嘘でないなら、若手を説得して口裏を合わせ嘘の証言をさせたと考えなければ辻褄が合わなくなります。伝統文化の錦の御旗のもとなら「嘘も方便」という自己正当化の呪縛に駆られた集団を侮ってはいけません。
 キロ当たり数万という〝赤黒いダイヤ〟を売って甘い汁を吸うことを当然の役得とみなす「素朴な鯨捕り」たち。同じく非正規ルートで入手した上等品の〝ダイヤ〟でがっぽり儲けたはずの共犯者である料理屋は「食文化の担い手」。だまされ、利用され、貢がされたのは、クジラでも白人でもない、納税者である日本国民です。
 一方で、製造主や砲手、学者といったお偉方にくみせず、不正行為に対して見て見ぬふりをできず、解体鯨肉の投棄や投げやりな調査に心を痛め、捕鯨船乗りとしてのプライドを傷つけられ、不倶戴天の敵であるところの環境保護団体にあえて情報提供を申し出るという苦渋の選択をせざるを得なかった内部告発者の方に対しては頭が下がります。まさしく日本の鯨捕りの最後の良心といえましょう。
 GPJでは福田首相宛のサイバーアクションを呼びかけていますが、形ばかりで黙殺されるパブリックコメントを見てもわかるとおり、北朝鮮拉致問題や死刑制度維持など国家権力に都合のよい場合を除いて、昨今の日本政府は市民の声をとかく蔑ろにしがちです。納税者としての怒りの声は上がって当たり前ですが、道路特定財源や年金をめぐる一連の経緯もありますし。むしろ、関心の高い海外の政府、メディア、一人一人の市民に、情報と日本人としての遺憾の声を届けましょう。「税金による調査でもお土産は伝統文化だ!」「海に捨てても魚の餌になるから無駄でないんだ!」といった、もはや唖然として返す言葉も出てこない、ネット右翼以外解読不能な超へ理屈でしか、言い逃れはききません。
 GPの今回の行動はかなりハイリスクで、なお予断を許しませんが、収穫のほうもこれまでにない大きなものです。サンチアゴ会合でこの問題が徹底的に追及され、最低でも来期の計画縮小という実質的な成果が挙がることを期待したいものです。

 みなさんも、日本政府に物申す権利がある、あるいは影響力を行使できると思われる国やメディア、企業などにさまざまな形で働きかけてみましょう!

※追記:(2008/6/18)
 東京地検による捜査が行われている最中なのに、共同船舶・鯨研は北西太平洋での調査捕鯨を強行しようとしました。ところが、先月末出港わずか数時間前に日新丸の船内で船員の自殺が発生。一時延期したものの、日新丸は結局1週間も待たずにいそいそと港を出てしまいました。重大な事件が立て続けに起こったにもかかわらず。
 一方、横領疑惑については11日に起訴見送りとのニュースが流れました。ところが、地検の担当者はGP側の問合せに「まだ捜査中」、水産庁も寝耳に水とのこと。折りしも、永田町では捕鯨推進派議員たちが集まって盛大な鯨肉パーティーが。
 事態はIWCサンチアゴ本会議を前にめまぐるしく動いていますが、改めて産・官・学・政・報から成る捕鯨ムラの強固な団結力と姑息さ、ふてぶてしさをまざまざと見せつけられた思いです……。

http://kkneko.sblo.jp/article/15768486.html
http://kkneko.sblo.jp/article/15962840.html
http://kkneko.sblo.jp/article/16015017.html

※追記:(2008/6/24)
 20日、GPJは逮捕、共同船舶社員は不起訴。IWC総会を前に調査捕鯨批判の声を封殺する日本政府側の動きに、世界の非難は高まっています。

窃盗口実NGOいじめ、警視庁公安部らグリーンピース・ジャパンを強制捜査・捕鯨問題で(リンク切れ)
世界でグリーンピース・ジャパン職員の即時釈放を求めるオンライン署名開始(GPJ)

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