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捕鯨論説・小説・絵本のサイト/クジラを食べたかったネコ

── 日本発の捕鯨問題情報サイト ──

(初出:2008/7/20 JANJAN NEWS)

遠洋調査捕鯨は地球にやさしくない
 ──日新丸船団、CO2を4万tは排出か?──


 7月7日から9日にかけて開かれた、先進国首脳会議(G8北海道洞爺湖サミット)では、先進国首脳会議(G8北海道洞爺湖サミット)では、地球温暖化が主要テーマの1つとなった。マスコミも地球環境問題の特集を組んで、盛んに問題を組んだ。
 一方、製紙会社が再生紙の古紙混合率に関して嘘の表示をしていた「エコ偽装」、食肉会社や水産会社など食品の生産・流通企業が産地や消費期限、品質等を偽って表示していた「食品偽装」など、企業の不正行為が次々と発覚して大きな社会問題となり、連日のように新聞紙面などを賑わせている。
 地球温暖化問題と関連する同様のエコ偽装が、共同船舶株式会社(共同船舶)と財団法人日本鯨類研究所(鯨研)で行われているのではないか。違反している可能性のある法律は2つ、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)及び「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)である。
 共同船舶は、鯨研が日本政府の委託を受けて行っている調査捕鯨の実施主体である。共同船舶はもともと商業捕鯨大手3社による合弁会社であり、現在は元の親会社から株式を譲渡された鯨研を始めとする水産庁系の外郭団体が株主となっている。調査捕鯨に対しては、国から毎年5億円の補助金と4億円の研究助成費が支給されており、海外漁業協力財団からも別途融資を受けている。
 日本の調査捕鯨が、調査の名を借りた擬似商業捕鯨として内外で批判を浴びていることは、ご存じのとおりである。

1.日新丸船団は、4万tはCO2を排出か

 環境省が温対法に基づいて定めた温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度では、特定排出者の指定を受けた事業所が、それぞれ同省の「算定報告マニュアル」に従い、事業活動に伴って排出される温室効果ガスの量を計算し、国に対して報告することが義務付けられている。それを環境省が集計して、結果を公表することになっている。

-温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度
http://ghg-santeikohyo.env.go.jp/

 ここでいう特定排出者とは、省エネ法の対象となる企業、または年間の温室効果ガス排出量が3千t(二酸化炭素換算)を越える企業である。報告を怠るなどして同法に違反した企業には、20万円以下の罰金が科せられる(温対法第50条)。2006年度の集計結果が、今年3月に環境省のホームページ上に掲載された。リストを検索しても、共同船舶と鯨研の名はない。
 部外者が、当該事業者に代わって温室効果ガスの排出量を算定することはなかなか難しい。とくに船舶の航行にかかる排出量は、航速、動的に変化する燃料分も含めた載貨重量、船の建造年数など諸々の要素によって燃費が大きく変わるため、計算が非常に厄介である。いくつか算出方法があるが、もっとも簡単かつ正確なのは、燃料消費量そのものから直接求める方法である。当の船会社は、伝票さえ見ればすぐにわかるわけだ。
 共同船舶の燃料消費量については、先日マスコミに関連情報が流れた。チリ・サンチャゴにてIWC(国際捕鯨委員会)年次総会本会議が始まった6月24日、新聞各紙は鯨研による鯨肉価格値上げの発表を報じた。そのうち、朝日新聞の記事は「石油高騰で今年度は燃料費だけでも約4億円増えるという」と伝えた。

-クジラ肉、2年連続の値上げ 目標数を捕獲できず(朝日新聞・6月24日)
http://www.asahi.com/business/update/0624/TKY200806240296.html?ref=rss4&ref=tv_asahi (リンク切れ)

 船舶の燃料となる重油は2種類、貨物船やタンカーなどの大型船舶で使用されるC重油と、より小型の漁船で主に使われるA重油とがある。調査捕鯨船団には、小型のタンカーに匹敵する捕鯨母船と補給船のほか、大型の漁船にあたる5隻の目視船/採集船が含まれる(詳細は後述)。ここでは、A重油のみの場合、C重油のみの場合、A重油とC重油を併用している場合(トン数、航行距離、燃費をもとに3:5の割合で計算)の3つのパターンで消費量を推計してみる。
 C重油の価格は、昨年11月に1リットル当り64.5円だったものが、今年6月には89円に値上がりした。一方、A重油の価格は、昨年5月に1リットル当り63円だったものが、今年5月には91円となった。

-燃料のリッター価格一覧表(太陽光発電メーカー・オージーテックのHPより)
http://homepage2.nifty.com/ogtech/gennyunedann.html (リンク切れ)
-A重油納入価格調査推移表(PDFファイル・石油情報センター)
http://oil-info.ieej.or.jp/price/data/Ajuyu.pdf

 朝日新聞の情報と合わせて計算してみると、調査捕鯨によって消費される燃料は、A重油のみの場合約1400万リットル、C重油のみの場合約1600万リットル、併用の場合はA重油約580万リットル及びC重油約970万リットルとなる。
 これにA重油とC重油の二酸化炭素排出係数をそれぞれかければ、最も少ないA重油のみのケースで3万9千トン、最も多いC重油のみのケースで4万9千トン、併用では4万5千トンという数字が出てくる。つまり、低いほうの数字でさえ、環境省の報告制度で対象となる二酸化炭素排出量3千tという基準を13倍も上回っているのだ。(kg・CO2/リットル)をかければ、およそ9万tという数字が出てくる。

-二酸化炭素排出量(一覧表)PDFファイル
http://www.skr.mlit.go.jp/eizen/image/hozen/09ondanka/co2haishuturyou.pdf (リンク切れ)


2.船舶と二酸化炭素排出量との関係

 数字は、朝日新聞の報道にあった燃料費用の増額が実際の数字と大きく違わないことを前提としている。念のため、環境省の集計結果に名前が載っており、排出量が共同船舶と近い船会社の、船舶と二酸化炭素排出量との関係を調べてみよう。
 例えば、2006年度の二酸化炭素排出量が57700tとなっている商船三井内航は、1万t級の貨物船2隻とその他小型船合わせて所有船7隻、総トン数は35000tほどである。もう1社、排出量が72800tの栗林商船では、1万t級の貨物船5隻他合わせて7隻で、総t数は73000tほどである。
 総t数の少ない商船三井内航のほうが、船のt数当りの二酸化炭素排出量/燃料消費量が多くなっているのは、船舶ではスケールメリットが働き、大型船ほど燃費がよくなることが主な理由と考えられる。
 ここで調査捕鯨船団の数字と比べてみることにしよう。公式の捕鯨船団は母船日新丸8044t、目視採集船(クジラを捕獲するいわゆるキャッチャーボート)勇新丸720t、同じく第二勇新丸747t、同じく第三勇新丸742t、目視専門船・第二共新丸372t、同じく海幸丸860tの6隻である。
 その他に、燃料補給と鯨肉の仲積を引き受けるオリエンタル・ブルーバード号という小型タンカーがあり、これが8725tとなっている。さらに、環境保護団体の抗議船捕捉の任を担う第68福吉丸や、他にも数隻国民に知らされていない関連船舶が存在するという。それらの“幽霊船”とて、もちろん燃料を消費して温室効果ガスを吐き出すことに変わりはない。t数のわかっている船舶だけでも、合計すれば2万tを越える。
 例に挙げた2社の二酸化炭素排出量が、船の合計t数と同じくらいか1.6倍程度なのに比べると、調査捕鯨船団は総t数の2倍~2.5倍とやや多いことがわかる。
 理由はいくつか考えられる。母船と仲積船以外の各捕鯨船は千tに見たず、大型船に比べ燃費が悪くなる。近海を徐行するだけの内航貨物船と違い、捕鯨船団は冬に1万km離れた地球の裏側へ遠征する。途中には、「吠える40度、叫ぶ50度、怒涛の60度」などと呼ばれる、世界有数の荒海、南極海を取り巻く周回流が横たわっており、エンジンをフル回転させて荒れ狂う海を突破することになる。しかも往復で。
 目視調査の総航行距離は1漁期当り延べ2万kmから3万5千kmにも及ぶ。捕獲時の高速追走や複数の鯨体を曳航するときにも燃料消費は増える。加えて、捕鯨母船には莫大な電力を消費する巨大な冷凍設備がある。船舶上では主機関と同様、重油を燃やす自家発電機により電力が供給される。通常の船舶では航行用のエネルギーの約1割程度だが、捕鯨母船ではこの冷凍設備のためにその比率がずっと高いことが予想される。個別に鯨肉を搬送する母船以外の仲積船や各捕鯨船も冷凍・冷蔵設備を持っている。
 この他、細かく見れば、解体時のクレーンやスリップウェーの稼働、洗浄用のポンプ駆動など、他の輸送用船舶にはないオプションの動力設備が日新丸には備わっており、その分燃料消費が増大することになる。これでは、内航船の貨物輸送より燃料の消費量が多いのも当然であろう。
 以上のことから、CO2排出量・3.9万tから4.9万tという推定は、調査捕鯨船団による排出量として妥当な線といえよう。もし仮に、実際の燃料消費量及び温室効果ガス排出量が、記者の算出したものより大幅に小さいとしたら、なぜ朝日新聞の取材に対して「燃料費が4億円も増える」という事実に反するコメントをしたのかという疑問が生じてくる。
 朝日新聞の記事には、、「農林水産省所管の海外漁業協力財団からの無利子融資の増額を期待している」という記述もある。もしかして、多くの漁協が一斉休漁を余儀なくされるなど世間が石油高騰で騒いでいることに便乗し、融資増額を狙って偽りの情報を流したのだろうか。同じ問いを再びすれば「あれは間違いで3億円だった」「2億円だった」という返事が返ってくるかもしれないが、そうすれば共同船舶は“コメントを二転三転させるのが得意な会社”として社会に認知されることになろう。


3.報告義務違反では?

 日新丸船団のCO2排出について、さっそく環境省の地球温暖化対策室に問い合わせてみた。担当者によれば、報告のあった事業所はすべてホームページ上で公開されているリストに掲載されており、また、現在までに報告義務違反で処罰を受けた事業所は1つもないとのことであった。
 競争上の権利保護規定により情報の非公開が認められた企業が36社あるが、これらはすべて経済産業省の所管企業であり、共同船舶と鯨研は該当しない。共同船舶/鯨研は独占的に国からの事業を引き受けているので、競争上の理由も存在しない。リストの中に一部、排出量が基準となる3千tに満たない企業も含まれているが、これは省エネ法の対象と考えられる。
 現在は事業所単位で算定・報告することになっているため、企業全体で3千tを越えていても分割されてリストに上ってこない企業もあると思われるが、これについては来年以降報告義務の対象に含めるという。それ以外は、温室効果ガス排出量が3千tより多い企業は、事実上すべてこの集計リストに上ってこなくてはならないことになる。
 念のため、直接排出している船舶の所有者である共同船舶について確認してもらったが、やはり情報はない。各事業所が直接報告する相手はマニュアルに定められた所轄省であり、環境省は基本的にはそれらの情報を集約するだけの立場にあるという。
 共同船舶は農林水産省の所管かと思いきや、おそらく船舶仲立業に該当するので国土交通省ではないかとのこと。報告は完全に事業所側任せなのかと尋ねると、業種によって大体の排出傾向があるので大まかなチェックをしているというが、それも所轄省が行っているそうだ。報告義務違反に関しては、もし一般からでも情報提供を受ければ、企業側の回答を待って対処するので、所轄省の窓口に申告してほしいとのこと。
 実際に排出量が3千tに満たないか、排出形態が特殊で算出・照会が未だに済んでいないなど、よほどの事情がない限り、違反者は法律に基づいて厳正に処分するそうだ。ただし、違反と処分についての情報を公開するかどうかは、やはりそれぞれの所轄省次第だということであった。
 排出量の数字だけを見れば、共同船舶は明らかに報告対象に含まれるはずで、桁違いの二酸化炭素を排出していながら報告を上げていないことになる。窓口が農水省でなく国交省であれば、連絡が行き届かないということもあるかもしれないが……。
 その後、温対法と施行令の条文を再チェックし、1つ見落としがあったことに気づいた。温対法の法律上では特定排出者を「相当程度多い温室効果ガスの排出をする者」(21条の2)としているが、詳細は施行令のほうで定めてある。その施行令5条の6に、「二酸化炭素(エネルギー(省エネ法第2条第1項に規定するエネルギーをいう、以下同じ)の使用に伴って発生するものを除く)の排出を伴う事業活動──」という下りがある。
 二重のかっこが入ってなんとも紛らわしいが、要するに、エネルギー起源二酸化炭素については省エネ法、非エネルギー起源二酸化炭素とその他の温室効果ガスについては別途定めた事業活動における排出量が3千トン(CO2換算)以上と、それぞれ別々の基準があてがわれるということだ。
 エネルギー起源二酸化炭素排出量がいくら3千tを大きく上回っていても、省エネ法に引っかからなければ報告の必要はない。「省エネ法の対象であれば少なくても報告させる」が、「その逆もあり」だったのだ。
 再度環境省に問い合わせた。担当者は指摘を認めたうえで、もともと温対法で付け加えられた3千tという基準は、省エネ法の水準に合わせて大体このぐらいということで設定されたものだと説明した。省エネ法では、報告の対象となる5つの特定事業者の1つである特定貨物輸送事業者について、区分毎に細かく基準を定めている。
 鉄道なら車両数300両以上、貨物自動車なら台数200台以上、そして船舶運送業者の場合は所有船舶の合計総t数が2万t以上となっている(同施行令第8条)。上述した通り、調査捕鯨船団の関係船舶を合計すれば2万t以上になるはずだが、パナマ船籍で別の船会社に所属する補給船を除くと、これを下回ることになる。
 担当者いわく、「ほとんどは(3千tの)枠内に収まるので……」とのことだが、現実に共同船舶は報告対象から漏れている。そもそもフェリーなどの内航貨物・旅客船のエネルギー消費を想定して作られた基準のため、冬は地球の裏側の南極近辺の海、夏には北太平洋を縦横無尽に疾駆する捕鯨船団についてはまったく考慮外だったのかもしれない。
 実は、温対法の対象のうち省エネ法の規定によって定められる特定事業者の中に、もう一つ、共同船舶と鯨研の活動に関連するものが含まれていた。「荷主」である。省エネ法の報告対象となる特定荷主の基準は、年間の貨物輸送量×距離が3千万tkm(トンキロ)以上となっている(第61条及び同施行令第10条の2)。
 共同船舶の船が輸送するのは調査捕鯨の“副産物”である鯨肉である。税金による補助はあるが、鯨肉の所有者は鯨研であり、共同船舶に売却して収益を調査事業費用に充てることになっている。環境省の初回の温室効果ガス排出量の算定対象年度である2006年度は、調査捕鯨による鯨肉の生産量はJARPA2(南極海鯨類捕獲調査)分の約3千tとJARPN(北西太平洋鯨類捕獲調査)分の約2千t、合わせて約5千tに上る。2つの調査における片道航行距離を大ざっぱにJARPA2で1万km、JARPNで3千kmとすれば、輸送重量距離は合わせて3600万tkm。
 操業期間中の母船及び各捕鯨船(採集船)による鯨体の搬送も、当然この中に含まれるべきであろう。いずれにしろ、報告対象の特定荷主となる輸送量3千万tkmを確実に上回ることは間違いない。
 そこで今度は、省エネ法の担当部署である経済産業省の省エネルギー対策課に問合せてみた。担当者によれば、ある程度規模の大きい企業には通知しているものの、個別の事業者の輸送実態を国側で把握して特定荷主の条件に該当するかどうかまで見極めるのは難しく、やはり事業者側の自主的な判断に頼るほかはないとのこと。特定荷主の基準については、省エネ法施行令に明記されている輸送重量距離3千万tkmのみで、他の基準はないという。
 輸送事業者は、船舶に関しては主として内航海運が対象となり外航海運は含まれないが、判断の基準となるのは通関を通すか否かであり、必ずしも外航船舶=対象外とはならないとのことだった。輸送の正確な情報を持っているのは輸送業者だが、荷主への情報提供には法的拘束力がないという事情もあるようだ。
 公海上を移動するとはいえ、日新丸は無寄港で日本と南極海を往来するので外航船とはいえないし、どのみち調査鯨肉は輸入に当たらないというのが日本政府の見解である。上記を鑑みれば、鯨研が省エネ法の「特定荷主」に該当し、同法及び温対法に反して報告を怠っている可能性は依然として残されていることになる。


4.温対法も省エネ法も抜け穴が多すぎる

 今回、両省に問い合わせてみてわかったのは、温対法にしても省エネ法にしても、基準が明確に定まっておらず、あまりにも抜け穴が多いということだ。温対法に定められる特定事業者のうち省エネ法によって規定されるのは、一部の工場、貨物輸送事業者、荷主、旅客輸送事業者、航空輸送事業者の5つのみで、貨物船などと同様に重油を燃やして(すなわちエネルギー起源の)二酸化炭素を排出する漁船については、基準自体法律上に記されていない。
 水産業者に対しても、海運業者と同じ所有船の合計トン数2万tの基準を設定するのは現実的とはいえない。事実上最大の遠洋漁業者ともいえる共同船舶が、補給船を別の船会社の所属にして報告対象となることを免れている以上、水産業にかかる温室効果ガス排出量は、国内の統計の中にまったく顔を出さないことになる。省エネ法の対象外となる水稲などの農業及び畜産業の場合は、環境省側で別途区分を設けているため、集計結果上は温室効果ガスを排出する業種という扱いを受けている。同じ一次産業でも、水産業に関する温室効果ガス排出量のデータのみが一切表に現れてこないのだ。
 この他にも、IMO(国際海事機関)で議論されているものの現在規制のない外航輸送による排出が含まれないなど、法の網から漏れてしまうものを細かく数えあげればきりがないであろう。「(改正法が)施行されてまだ2年なので……」とは省エネ対策室の担当者の弁。省エネ法も報告義務に違反した場合は50万円以下の罰金と定められているが(第96条)、温対法同様まだ適用された例はない。また、事業者の認知が進んでいないという理由で、第三者の指摘により違反が見つかった場合でも、最初にやんわりと勧告・指導し、それでも報告がなかった場合に企業名公表、まだダメだったら初めて処分という手順になるそうだ(経産省らしいといえるかもしれない)。
 これでは、鯨研/共同船舶による報告義務違反を、どこかの省庁が認定したとしても、処分にまで至ることはなさそうである。もっとも、温対法に基づき開示請求を求めることは可能である。はたして、実際に鯨研を特定荷主として指定し、調査捕鯨に伴う温室効果ガス排出量を公開させるところまで行き着くかどうかは微妙なところだ。
 しかし、基準を少なくとも10倍以上超過しているケースまで見過ごされるようでは、法律としてきわめて重大な欠陥を抱えているといわざるをえない。現状の温対法は、事業者側の"良心"を信用して報告内容をほぼそっくり丸呑みするに等しく、地球温暖化問題に取り組んでいるNPOである気候ネットワークは、様々な問題点を指摘している。


5.地球にやさしい捕鯨??

 今年の3月、「捕鯨のほうが畜産より環境にやさしい」というノルウェーの捕鯨推進活動家による調査結果をロイター通信が報じた。

-クジラの肉は牛肉より環境に優しい=ノルウェー活動家(ロイター)
http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-30627220080304

 こうした主張は、日本の捕鯨賛成派のメディアや文化人が以前から繰り返し論じてきたものである。

例:環境保護の見地からの捕鯨賛成論(ゲオルグ・ブリヒフェルト)
http://luna.pos.to/whale/jpn_blich.html

 ロイターの報道によれば、鯨肉1kg当りの温室効果ガス排出量1.9kgに対し、牛肉は15.8kg、豚肉6.4kg、鳥肉4.6kgと、いずれも鯨肉より多くなっている。
 上記の数字のうち、鯨肉以外は、食料問題や南北問題、工場畜産の問題に取り組むNPO/NGOなどがよく掲げるデータと同じものである。
 この件に対するグリーンピースの反論にもあるように、迂回生産に加え、反芻動物である牛はメタンを大量に排出するため、「どんなものでも牛よりマシ」というほど、確かに牛肉生産による地球温暖化への寄与度は高い。
 ただし、ここにある鯨肉の数値は小型沿岸捕鯨(燃料消費のみ)によるもので、母船式遠洋捕鯨のそれとはまったく異なる。
 そこで、燃料費の増額から求めた調査捕鯨の二酸化炭素排出量を、鯨肉の単位生産量当りの数字に直してみることにしよう。調査捕鯨による年間の鯨肉生産量を約5千tとすると、見積りの最小値である3.9万tの場合で7.7kg、最大値の4.9万tなら9.7kg。最小値でも豚肉を上回り、最大値では鶏肉の2倍を越える。
 実は、この見積りはまだまだ甘い。調査船団の燃料消費は、鯨肉生産に伴う温室効果ガス排出活動のすべてではないからだ。
 船舶からは二酸化炭素ばかりでなく、大気汚染物質でもある硫黄酸化物や窒素酸化物など、他の温室効果ガスも排出される。硫黄分の多いC重油を用いる大型船舶の排気は、とくに硫黄酸化物の割合が高くなる。ボイラーの燃焼では、より排出係数の高いメタンも排出される。
 もう一つ忘れてはならないのが、冷凍・空調設備に冷媒として使用される代替フロンHFCである。代替フロンはオゾン層を破壊しない代わり、種類によっては二酸化炭素の1万倍にも達する強力な温室効果を発揮するものがある。これらHFCは、設備への封入時や、メンテナンス・故障時の漏洩により大気中へ排出される。しかし、測定が容易でないこともあり、環境省の算定報告マニュアルでは事実上無視に近い扱いとなっている。
 船舶の冷凍設備に関しては、陸上施設に比べても管理が甘く、リーク量が多いのではないかと指摘されている。日新丸は1987年、補給船オリエンタル・ブルーバード号は1978年建造の老朽船であることも、念頭に置く必要がある。
 海上輸送にかかる分だけを計算するのでは不十分であろう。国内で小売店や料理店、あるいはネット販売で注文した消費者宅へ届けられる際の陸上運送にかかる二酸化炭素排出もある。例えば、20kgの鯨肉を東京から青森へ運べば、それだけで2kg分のCO2が排出されることになる。そして、もう一つ見過ごせないのが、鯨肉を在庫として保管する際に冷凍設備が消費する電力及び冷媒のHFC使用である。
 鯨肉の月末在庫は平均値が生産量の8割、最低値でも5割で、他の水産物と比べても在庫率がきわだって高い。年間を通じて最低でも2500tの冷凍・冷蔵鯨肉が全国各地の流通会社や食品会社の倉庫に貯蔵されており、そのために電力が常時供給され続けていることになる。
 まだある。投下設備のLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)──具体的には、巨大な捕鯨母船を始めとする船舶と関連設備の建造、鉄鋼など原材料の採掘・輸送・精製にかかるトータルの環境負荷まで、厳密にいえば考慮に入れる必要があるだろう。そうでなければ、他の食糧生産との対等の比較はできない。
 これらの過程で排出される温室効果ガスの量をすべて合計したならば、母船式遠洋捕鯨/調査捕鯨の鯨肉生産による環境負荷は、環境に悪いとされる牛肉の生産に匹敵する可能性もある。飼料を含めた地産地消型の畜産には確実に負けるだろう。この点については、グリーンピースは少々捕鯨に対する採点が甘すぎたかもしれない。
 念のため捕捉しておくと、調査捕鯨の活動よる二酸化炭素排出量には、目視船の走行分も含まれる。これらは直接的には鯨肉の生産に伴う排出にはあたらない。しかし今後、仮にIWC(国際捕鯨委員会)の管理下において商業捕鯨が再開された場合、RMS(改訂版管理方式)という新しいルールに則ることになり、目視調査による継続的なモニタリングが必須となる。
 結論からいえば、大型鯨類の激減、南極海生態系の荒廃と撹乱を招いた乱獲時代の商業捕鯨と一線を画する、厳重に管理された持続可能な新時代の商業捕鯨とは、きわめて環境負荷の高いものとならざるを得ないのだ。しかも、実績がない以上、海洋生態系に果たして影響がないかどうかも未知数である。


6.すみやかにCO2排出量の公表を

 鯨研/共同船舶は、温対法、省エネ法に違反して、CO2排出量の報告義務を怠っていた疑いがある。たとえ罰金20万、50万程度の罰則であれ、法に抵触した可能性がある。
 温対法と省エネ法には不完全なところがたくさんある。しかし、捕鯨推進派はこれまで環境問題に対する“高い関心”を示してきた。共同船舶から鯨肉販売の一部を引き受け、所在地を共有している合同会社の鯨食ラボは、政府などの「チーム・マイナス6%-みんなで止めよう温暖化」にも参加している。
 そうであれば、環境省の制度も熟知していようし、自らの活動がどれくらいの温室効果ガスを排出しているか、正確にきちんと把握していても不思議はない。自ら進んで詳細な数字を示したとて、恥ずかしいことなど何もないはずだ。対象外であっても自主的に環境省に報告し、捕鯨がいかに地球環境保護に貢献するかを声高にアピールしたってよさそうなものである。
 実際、企業の多くは政府の規制と無関係に、積極的に温室効果ガス排出量の数字などをホームページ上で公表し、環境保護の姿勢を消費者に向けて打ち出そうとしている。例を挙げれば、商船三井などは外航船舶も含めた二酸化炭素排出量の数字までサイト上に掲載している。燃料消費量がわかっていれば、二酸化炭素排出量を弾き出すのはいたって簡単だ。科学を標榜する鯨研の研究者たちであれば、お茶の子さいさいであろう。しかし、彼らにデータを開示する姿勢は見られない。
 鯨研/共同船舶は、いますぐ彼ら自身が行っている調査捕鯨による実際の排出量の数字を公表すべきである。もし、4万tないし5万tという、容積に換算すれば東京ドーム16杯から20杯分に相当する膨大な量の二酸化炭素を排出していることが事実であるなら、そう認めるべきである。そして、早急に一般市民やマスコミの間に広まっている大きな誤解を解くべきである。事実でないというのなら、数字とその算出根拠を明示すべきである。
 ノルウェーの活動家が出したまったく異なるデータを引き合いにしているのは、実際には日本の捕鯨を応援している市井の人たち(一部の著名人も含む)であり、調査捕鯨の当事者である水産庁、鯨研、日本捕鯨協会のホームページなどでは、どうやら「捕鯨が地球環境にやさしい」という直截的な表現までは使っていないようである。
 ひょっとして、母船式捕鯨の環境負荷が畜産に匹敵する、あるいは場合によってはさらに高いことが明らかになるのを恐れて、あえて沈黙しているのだろうか。環境省が報告義務の1つの目安として提示した3千tという数字を十数倍も上回る温室効果ガスを排出していることを知りながら、「捕鯨が環境にやさしい」という実態とはかけ離れた言葉だけがインターネットなどを通じて独り歩きするのを、黙って傍観するつもりなのだろうか。それは、再生紙偽装や食品偽装に勝るとも劣らない、地球温暖化への市民の危機感に便乗した、きわめて悪質な「エコ偽装」にほかならないのではあるまいか。
 あるいはそれが、国策捕鯨を担う水産庁/鯨研/共同船舶(くわえて捕鯨議連)の運命共同体=捕鯨サークルの“体質”ということなのかもしれない。
 今回は、たまたま報道された情報に基づき、人々が受け止めていたイメージとは異なる捕鯨の実態が浮かび上がってきた。私たちは環境問題を考える際に、とかくフィーリングに頼りがちである。自分たちの活動が「環境にやさしい」と唱える事業者は、なぜそういえるのか、どのくらいやさしいのか、きちんと数字を示して消費者、納税者に伝えるべきである。そして、公開された内容が本当に正しいのかどうかも、第三者によって厳しく検証されなければならない。


※ 船舶のCO2排出量計算にあたってAdarchismさんにご助力をいただいた。この場を借りてお礼申し上げたい。

※ 昨年末頃、記者が環境省の関連情報を収集した時点ではまだ公開制度の検討中であり、その後集計結果が掲載されたことに気づくのが遅れてしまった。IWCサンチャゴ総会、洞爺湖温暖化サミットより前のタイミングで報告できなかったことが少々悔やまれる……。


(関連サイト:船舶関連)
商船三井
商船三井内航
栗林商船

参考:
地球温暖化とクジラ
調査捕鯨による温室効果ガス排出量はやっぱり最低でも年間4万トン(C02換算)以上だった!

旧JANJAN掲載記事

自然科学系

社会科学系
 

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