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── 日本発の捕鯨問題情報サイト ──

(初出:20012/10/30 JANJAN NEWS)

マスコミが伝えきれない調査捕鯨への復興予算流用問題

  昨年度のいわゆる復興予算の使われ方について、マスコミや野党議員が政府を手厳しく追及している。その具体例の一つとして槍玉に挙がっているのが、22.8億円に上る調査捕鯨への補助事業だ。批判報道は次第に下火になってきたが、マスコミが攻めきれなかった問題点は多々ある。問合せに対する水産庁側の回答と合わせて、ここに指摘しておきたい。

 

1.できたのにしなかった、復興に役立つ調査捕鯨

 10月18日の農水省記者会見で、山田副大臣は次のようにコメントしている。

 最初は、捕鯨って言うからな、どうして、復興・復旧に関係あんのかと思ったらば、「捕鯨船が石巻に寄港する」というだったもんですから、あぁ、それなら、復興・復旧の一助になるなと、そう思ったわけです。(引用)

 この件に対する水産庁国際課の説明は、「副大臣の誤解。こちらの説明の仕方が悪かった」。

 しかし、実際に石巻へ捕鯨母船が帰港していれば、同市の復興に役立ったと胸を張っていえたのではないか。昨年1月には、下関市長が「入港すれば20億円の経済効果が見込める」と関係機関に陳情を行っている。石巻で地元経済にそれだけの貢献が期待できるなら、復興名目で20億円を投じたとしても、目くじらを立てる国民はいなかっただろう。

 「補正事業の策定時に、石巻への帰港も検討していたのか?」との問いに、水産庁からは「当時の文書がないのでわからない」と明瞭な回答を得られなかった。

 霞ヶ関の聡明な官僚といえど、石巻港の復旧状況について、予算事業の立案時に見通しを立てるのは困難だったろう。昨年の11月の段階で、同港では大型船舶の接岸まで可能になっていたが、捕鯨母船を帰港させるには、やはり冷凍倉庫など関連インフラの復旧が不可欠となる。

 それでも、予算を調査捕鯨の実施主体・日本鯨類研究所(鯨研)への補助金ではなく、石巻港復旧に直接回していれば、たとえ昨季に間に合わなかったとしても、母船の同港への帰港を早期に実現し、結果的に石巻の経済に還元して復興のスピードを速めることが可能だったはずだ。

 水産庁は〝励まし〟も事業の理由の一つに挙げていたが、こうした使われ方に首を捻っている関連業者、復興の実感がない石巻市民にとっても、〝本当の意味での励まし〟になったに違いない。

 

2.一般予算での確保がムリだったからこそ便乗した

 マスコミや国会議員などからは、「復興予算ではなく(復興名目以外の)一般会計予算で対応すべき」との声がある。

 だが、10月5日付の公明新聞によれば、党幹事長の質問に対し、水産庁は「復興予算で対応しないと南極海の調査捕鯨ができなくなる」と答えている。記者の問いに対しても、「『できなくなる可能性が十分ある』と回答した」と認めている。

 つまり、調査捕鯨は、昨年度予算で事業継続に必要な追加の補助を受けられる目処が立たなかった。だからこそ、復興予算に活路を求めたのだ。まさに〝便乗〟である。

 財政難の折、調査捕鯨への国からの拠出の妥当性について、復興名目と否とを問わず、改めて議論されるべきだろう。

 ひとつはっきりいえるのは、反捕鯨団体シーシェパード(SS)の妨害活動さえなかったら、妨害を口実にした復興名目の国庫補助を受けられず、調査捕鯨が継続できなくなっていた可能性が非常に高かったということだ。

 

3.作られた18億円の数字──算定根拠への疑問

 では、一般予算の枠で対応さえすれば、今回の交付金額は「妥当」といえたのだろうか?

 同予算23億円から妨害対策費5億円を除いた18億円については、10月24日に朝日新聞が、23日に開かれた衆議院決算行政監視委員会における本川水産庁長官の発言をもとに、「そっくり鯨研の負債補填に当てられた」との見方を報じている。

 記者の問合せに対し、水産庁国際課は「妨害によって生じた前年度の減産による鯨肉売上げの減収分」としている。これについては、10月5日に毎日新聞が報じているとおりだが、同紙に寄せた水産庁の回答が「偶然」とあるのは、どうやら説明の仕方がまずかったせい(あるいは、朝日からの指摘と同じだと勘違いしたせい?)のようだ。どのみち、赤字の穴埋めであることには違いない。

 だが、調査を打ち切ることで生じた「減産」による販売益の減少が、債務超過に陥った鯨研の負債を帳消しにして「正味財産がゼロ程度になる(衆院決算行政監視委での本川長官発言)」だけの数字と一致したのは、本当に「偶然」だったのか。

 毎日報道にある、「09年度の収入27億円と10年度の収入9億円との差額」という説明は、一見わかりやすく聞こえる。しかし、それは前年と同じ供給量を、前年と同じ公定価格で、すべて売り切れるとの仮定に基づいた話だ。

 事業者である鯨研/共同船舶と水産庁との協議で決められる鯨肉の販売価格だが、実は過去にも改定されている。08/09年次にも、生産量の増加を受け、赤肉を中心にkg当り200円等、大幅な値下げを行った。

 一般の商品と同様に考えるなら、需給に応じて販売価格が上下するのは当然のことだ。需給が逼迫する中で供給が滞れば、逆に値が上がるのは自然な動きである。そして、単価が変われば、収益にも反映される。

 そもそも、鯨肉は科学調査事業の副産物にすぎず、そのコストを賄うためにこそ販売が認められているのだ。国際条約に認められた調査捕鯨の主旨に従えば、供給量が大幅に下がった場合は、売価の調整によって減収分を補うべきなのだ。経済的にも理に適っている。

 しかし、大幅な減産にも関わらず、水産庁はなぜか10年次分の副産物販売価格を据え置いた。「国民に安価な鯨肉を提供するために、製造原価の削減を図り、価格転嫁を避けた」というのが表向きの理由だ。調査経費の確保より副産物の値上げ回避を優先すること自体、まさに本末転倒なのだが。主旨に反して価格転嫁を避けたことで、赤字がさらに膨らみ、さらなる公的補填を余儀なくされたのは否定の余地がない。

 もっとも、販売価格を据え置いた真の理由が「売れないから」であることは、昨年度の鯨研の財務諸表で副産物売上全体の減収幅が37億円に上ったことなどからも、もはや火を見るより明らかだ。

 今回の調査捕鯨への復興補正予算の流用に対し、国会議員やマスコミの追及は、「予算を出す財布の違い」にとどまっている。だが、18億円という数字自体が、SSの妨害を口実にしながら、実際には副産物の販売不振によって生じた赤字の穴埋めのために捻出された、すなわち不適切な算定根拠による過大な拠出額だった可能性がきわめて高い。

 農水省/水産庁に自浄能力は期待できない。行政刷新会議や会計検査院が、適正な科学調査事業というには程遠い、調査捕鯨への国庫補助適用のあり方について、根底から洗い直すべきだ。


4.被災地への供給はたった3%

 10月23日に開かれた衆院の決算行政監視小委員会で、「石巻の鯨肉のシェアに占める南極産の割合は数%では」と自民党の平議員が質した。それに対し、佐々木副大臣は「鯨肉のシェアは南(南極)が43%」と答弁した。だが、この数字は全国のものである。水産庁国際課も、この発言の誤りを認め、「石巻での南極産のシェアは3%(昨年度)」と回答した。

 復興予算の主旨、水産庁が掲げる「石巻の復興のため」という観点からすれば、現地の被災企業に直接投じるか、他地域であれば100%といわずとも、せめて被災地が大きなシェアを占める製品を取り扱う事業者に補助すべきではないのか。

 

5.二重ローンに苦しむ被災企業を尻目に赤字の穴埋め

 南極海の調査捕鯨では、SSの妨害、天候不順、行方不明者の捜索などの理由で、過去数年にわたって所期の捕獲数の目標を達成できずに終わっている。昨年の復興補正の「安定化事業」以前から、調査捕鯨にはSS対策費として「円滑化事業」の名目で毎年7、8億円の補助金が拠出されてきた。にもかかわらず、鯨研は債務超過状態に陥った。

 報道されているとおり、二重ローンに苦しむ被災地の零細事業者は、グループで復興補助金の申請をしても、その多くが予算不足等の理由で却下されている。認められた場合も、従業員の給与には充てられず、設備投資も領収証の添付が義務付けられ先行投資(借金)が必要で、新品との買換えすら禁止等々、さまざまな制約が課されている。東北の漁協の中には、震災後の廃業率が8割を越えるところもあるという。

 被災地の人々の目からは、「一体この待遇の差はどういうことなのか?」と映るだろう。

 

6.≪儲かる漁業≫制度でも別格扱い

 水産庁国際課は、今年度については復興予算(の流用)は「もうしない」と言明した。返還する気もなさそうだが・・。

 それもそのはず、債務超過団体を脱したうえに、漁業構造改革総合対策事業・通称≪もうかる漁業≫による多額の補助制度(15億~20億円程度の見込み)まで受けられることになったのだ。

 ≪もうかる漁業≫名目で補助を行うのであれば、「調査捕鯨は商業捕鯨ではない」との国際社会に対する従来の説明と明らかに矛盾する。

 水産庁は、「調査捕鯨は≪もうかる漁業≫ではない。でも、適用に問題はない。かといって、≪もうかる漁業≫の呼称自体は不適切ではない。IWC(国際捕鯨委員会)でもそう説明する」と繰り返すばかり。制度の別称とはいえ、≪もうかる漁業≫という用語は水産庁自身が使っている。今後この呼称の使用をやめることについては検討するとのこと。

 一点、業界紙・水産経済新聞の関連記事で「別仕様」との公共事業らしからぬ表現があったが、今回の鯨研への適用のためだけに、同事業の要領にあえて「鯨類捕獲調査を適用範囲に定める」旨追加したとのこと。

 実は、≪もうかる漁業≫は昨年度は事業枠がいっぱいで新規事業を受け付けていなかった。ところが、震災後≪がんばる漁業≫という名の補助事業が別に創設され、一部の事業がそちらに移されることで60億円ほどの空席が生じたのだ。こちらも、まさに復興に便乗する形でありついた補助金ということができる。

 

 今回の復興予算流用事業の中でも、調査捕鯨への補助22.8億円は、1事業者当りの金額としては非常に高額である。調査捕鯨への国庫補助が、事業としての妥当性が精査されぬまま、〝聖域〟として扱われ、正当化されている実態が、改めて浮き彫りになった。

 復興が進まない被災地の状況との乖離もさることながら、その理不尽が許される〝背景〟にも、どうか目を向けてもらえるよう、国民一人一人にお願いしたい。

 

参考リンク:
-調査捕鯨の予算は見直されたか?|ika-net日記
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-1dab.html
-復興予算の使われ方ー衆院決算行政監視小委員会|ika-net日記
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-35c9.html
-被災地だけの復興予算か|情報屋台
http://www.johoyatai.com/?m=pc&a=page_fh_diary&target_c_diary_id=983
-農林水産省/吉田農林水産副大臣記者会見概要(10月18日)
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/v_min/121018.html
-使途は被災地が最優先|公明新聞(10月5日)
http://www.komei.or.jp/news/detail/20121005_9270
-復興予算:「反捕鯨対策」に石巻から疑問の声|毎日新聞(10月5日)
http://mainichi.jp/select/news/20121006k0000m040046000c.html
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=5&board=1834578&tid=a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa&sid=1834578&mid=59349
-調査捕鯨費、実は赤字の穴埋め 復興予算問題|朝日新聞(10月24日)
http://www.asahi.com/business/update/1023/TKY201210230606.html
-平成22年度事業報告書|財団法人日本鯨類研究所
http://www.icrwhale.org/pdf/H22jigyo.pdf
-第22次南極海鯨類捕獲調査で得られた調査副産物の販売について
http://www.icrwhale.org/090701ReleaseJp.html
-2010/11年南極海鯨類捕獲調査で得られた調査副産物の販売について
http://www.icrwhale.org/110415ReleaseJp.html
-もうかる漁業創設支援事業に係る改革計画の審査・認定について|水産業・漁村活性化推進機構
http://www.jf-net.ne.jp/fpo/gyoumu/hojyojigyo/01kozo/kozo_file/kozo_shinsanintei.pdf
-東北の被災地を足蹴にして復興予算をせしめた厚顔無恥な捕鯨サークル|クジラ・クリッピング
http://kkneko.sblo.jp/article/59017147.html
-復興予算を食い物にしようとした盗人猛々しい調査捕鯨城下町・下関市|クジラ・クリッピング
http://kkneko.sblo.jp/article/56253779.html


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