── 日本発の捕鯨問題情報サイト ──
(2019/9/27)
(訂正:2019/12/21)
捕鯨に関するQ&A
Q1.海洋生物資源の持続可能な利用について,日本はどのような立場をとっていますか?
Q2.海洋環境保全のための日本の取組について教えてください。
Q3.1946年の国際捕鯨取締条約の作成により,捕鯨は禁止されたのではないですか?
Q4.日本はなぜ国際捕鯨委員会(IWC)を脱退したのですか?
Q5.今後,日本は捕鯨に関する国際協力をどのように進めていくのですか?
Q8.日本の捕鯨は鯨類の資源に悪影響を与えるのではないですか?
Q9.IWC科学委員会は,日本の捕獲枠に反対しているのでしょうか?
Q12.日本以外に捕鯨を支持,または行っている国はありますか?
※ 外務省回答の傍線・赤字は、筆者による訂正(外務省公開は9月20日)
~ 外務省の回答 ~
日本は,海洋生物資源は,科学的根拠に基づく管理の下で,持続可能な利用が図られるべきとの立場です。
~ カウンター回答 ~
外務省はたった1行で済ませちゃってますが、開いた口が塞がりません・・・
FAOの発表した将来の漁業生産予測の中でも、厳しい資源管理を行っている反捕鯨先進国の数字が堅調に伸びているのに、日本だけが大幅減と〝1人負け〟の状態。
水産庁が評価している主要な漁業対象種の半数は乱獲による資源枯渇でずっと低位の状態が続いているにもかかわらず、捕鯨にごっそり予算を取られる所為もあって、科学的知見が不十分なまま。クロマグロ、ウナギ、ホッケ、マサバ、スケトウダラ、トラフグ・・・いずれも乱獲が明らかなのに、科学より政治を優先して歯止めをかけられないという、目も当てられない有様。マスコミも消費を煽るばかりで、持続的利用の考え方が広く浸透しているとは到底いえないのが実情です。
つまり、「持続可能な利用が図られるべき」なのに、それがちっとも出来ていないのが捕鯨ニッポンなのです。
あ・・・だから1行で済ませるしかないのか。。。
~ 外務省の回答 ~
日本は海洋環境に関する問題に対処するため,総合的なアプローチに基づき取り組んでいます。
例えば,鯨を含む海洋の生態系に否定的な影響を与える海洋プラスチックごみ問題に,日本は他国と協力して取り組んでいます。G20大阪サミットにおいては,2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を参加国指導者と共有しました。
同ビジョンの実現に向け,日本は途上国の廃棄物管理に関する能力構築及びインフラ整備等を支援していくこととしており,既に,廃棄物管理の人材を,世界で2025年までに1万人育成することにコミットしています。詳細は下記のページをご覧ください。
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ge/page23_002892.html)
~ カウンター回答 ~
外務省は「総合的なアプローチ」といってますが、書かれているのは海洋プラスチックごみ問題のみで、しかもG20大阪サミットのネタだけ。気候変動、沿岸の開発とプラスチック以外の化学物質汚染、乱獲・違法漁業・混獲、音響妨害や船舶衝突による野生動物への被害等に一言も触れられていないのは残念。
その海洋プラごみ問題でも、G20大阪の前年に開かれたG7で制定された海洋プラごみ憲章に日本は米国とともに署名せず、批判を浴びました。G7憲章ではリサイクル率・回収率等の具体的な数値目標が設定されたのに対し、G20大阪宣言の方は「50年までに〝追加の汚染〟をゼロに」のみで、実現に向けたロードマップや罰則規定を含む実効性のある法的規制には踏み込めていません。
外務省が胸を張っている途上国の廃棄物管理の支援は確かに必要な施策ですが、日本はこれらの国々に大量のプラごみを輸出してきた立場なので、責任を負うべきなのは当たり前。
実は、野生動物を脅かしているプラごみの最大の排出源は一般家庭ではなく、4割以上が遺棄された漁網等の漁業系廃棄物。しかし、G20大阪でまとめられた対策実施枠組では、汚染の実態を「特定し推計するための手法の探求」との表現で終わっており、日本自身の取組も現行施策の徹底だけで、解決に向けて(IWCでやってるみたいな)リーダーシップを発揮する姿勢はうかがえません。
さらに、海洋環境問題における最大のテーマは気候変動といえますが、G20大阪では米国に配慮して玉虫色の表現で済ませ、前進は一歩もなし。9月に開かれた気候サミットでは日本は新たな具体的対策案を何一つ示せず、発言機会さえ与えられませんでした。
要するに、安倍首相に花を持たせただけ・・・
~ 外務省の回答 ~
いいえ。国際捕鯨取締条約は,捕鯨の適切な管理を確保するための国際約束です。この条約は,「鯨族の適当な保存を図る」のみならず,「(鯨類の保存により,)捕鯨産業の秩序ある発展を可能にする」ことを目的に明記しています。
また,あらゆる鯨類について商業捕鯨の捕獲枠をゼロとするとの1982年のIWCの決定(いわゆる「商業捕鯨モラトリアム」)が,「捕鯨の禁止」であるという深刻な誤解が広まっています。
・商業捕鯨モラトリアムが,最良の科学的助言に基づいて検討されるものとすること。
・遅くとも1990年までに,IWCが商業捕鯨モラトリアムの影響について包括的評価を行うこと。
・遅くとも1990年までに,商業捕鯨モラトリアムの修正及びゼロ以外の捕獲頭数の設定を検討すること。
残念なことに,IWC の過半数の加盟国は,環境上の理由ではなく,政治的な理由により,今日までこの法的合意を無視し続けています。
~ カウンター回答 ~
「1946年に捕鯨が禁止された」と主張している国や団体はどこにもありません。この設問はきわめて悪質なミスリード。
確かに、国際捕鯨取締条約は鯨類の保全と捕鯨産業の発展を両輪としていました。そもそも捕鯨産業は鯨類の保全なくして成立せず、前者が大前提となるのは当然のこと。残念ながら、IWCは設立以降ずっと、その前者に関して肝心の使命を果たせませんでした。なぜなら、日本等の捕鯨国の抵抗で規制が常に後手に回って乱獲に歯止めがかからず、悪質な規制違反や海賊捕鯨が横行し続けたからです。商業捕鯨モラトリアムは、まさに〝国際約束が反故にされた実情〟を踏まえて決議されたもの。外務省の説明はそうした背景を無視しており、日本の重大な責任に対する真摯な反省もうかがえません。
「法的合意」は決して無視されてなどいません。モラトリアム条項に関する附表に定められているのは、「指定時期になったら解除すること」ではなく、あくまで(解除するかどうか)「検討すること」。実際には、1990年の段階ではRMPさえ完成しておらず、評価ができる状況にありませんでした。検討したうえで「やっぱり解除なんてできないよ」という結論に至っただけのこと。「モラトリアム解除が国際合意だ」との主張は〝深刻な誤解〟にほかなりません。
日本の調査捕鯨は二度の国際法違反が確定しました。つまり、日本は「合意の無視」どころか、〝国際条約そのものを無視〟したのです。法の抜け道を探ることが常套手段になってしまった以上、日本の言い分がまともに信用されないのも仕方のないことでしょう。
奇妙なことに、日本はこれまでIWCに提出してきた沿岸捕鯨枠要求提案の中で「モラトリアム条項の削除は求めない」と説明していました。対象種について未解決の多系群問題等、科学的な「環境上の理由」に基づく懸念があったにもかかわらず、「政治的な理由」で特例扱いを求めたのです。
実は、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」に定められた「2050年までに海洋プラごみの追加の汚染をゼロ」にするとの目標には、外務省や水産庁が捕鯨の文脈で主張しているのと同じ意味での「科学的根拠」「環境上の理由」はありません。これからデータを集めましょうといってるくらいですし・・。つまり、「環境上の理由ではなく」、G20サミットの成功を演出するという「政治的な理由」で掲げられたとの見方も十分可能なのです。
もちろん、海洋プラごみ対策は喫緊の課題であり、「環境上の理由」すなわち予防原則の観点から見れば、NGO共同声明が示すとおり、大阪プランはきわめて不十分なものでした。商業捕鯨モラトリアムとは対照的に、「環境上の理由」が蔑ろにされ、「政治的な理由」で実効性のない妥協の産物と化してしまったのです。
~ 外務省の回答 ~
日本は,IWCにおいて,適切な科学的根拠に基づく捕鯨の管理が期待し得ないことが明らかになったため,脱退を決断しました。この決断に至るまで,日本は,30年以上にわたり,国際捕鯨取締条約の本来の目的から乖離していたIWCを本来の役割に立ち戻らせるため,真摯な取組を続けてきました。今回の決断は,国際的な海洋資源の管理からの近視眼的な離脱ではありません。
IWCには,国際捕鯨取締条約により,鯨類の保存と捕鯨産業の秩序ある発展という二つの役割が与えられています。そのため,いわゆる商業捕鯨モラトリアムが決定されて以降,持続可能な捕鯨の実現を目指し,日本は,収集した科学的データに基づき真摯な対話を行い,全加盟国が受け入れられる解決策を模索すべく用意された場に積極的に参加してきました。
しかしながら,鯨類の保護のみを重視し,持続的利用の必要性を認めようとしない国々からの歩み寄りは見られませんでした。さらに,2018年9月のIWC総会でも異なる意見や立場が共存する可能性すらないことが明らかになりました。その結果,日本はIWCからの脱退を決断しました。詳細については,平成30年12月26日官房長官談話をご覧ください。
(https://www.kantei.go.jp/jp/tyokan/98_abe/20181226danwa.html)
~ カウンター回答 ~
「美味い刺身の安定供給のため」(~元水産庁長官の国会答弁)国際法に反する調査捕鯨を長年実施しておきながら、「真摯な取組」などと一体どの口が言えるのでしょうか!?
「解決策を模索」する試みはIWCでこれまで幾度かなされてきましたが、いずれもコンセンサスは得られず破談に終わりました。確かに、譲歩を拒んだ一部のラディカルな反捕鯨国にも責任はあるでしょう。しかし、南極海捕鯨に拘泥し続け、落としどころとなり得る提案を拒んだ日本も間違いなく〝同罪〟です。
次の外務省の説明も正しくありません。2018年のIWC総会で提出された日本提案は、お互い対等な条件であるかのように見せかけながら、日本の要求のみを無理やり1つのパッケージにまとめた内容で、決して「異なる意見や立場の共存」を目指すものではありませんでした。だからこそ、中立に近いインドのみならず、捕鯨賛成国であるロシアからも同意できない旨の発言がなされたのです。最終的には味方のはずの韓国とロシアが棄権。つまり、〝異なる立場〟でないハズの国々を説得することにさえ日本は失敗したのです。
日本のIWC脱退は、捕鯨産業にとっても面子を優先して実利を失うものとなりました。しかし、脱退により、海洋資源に関して国際協調を重視しない日本の姿勢が浮き彫りにされたのは否定の余地がなく、「近視眼的な離脱」のそしりは免れません。
ところで、日本が核拡散防止条約(NPT)を批准してからもう40年以上が経過しています。この間、核廃絶の必要性を認めようとしない核保有国からどんな歩み寄りがあったのでしょうか?「美味い刺身」などとは比較にならない全日本人の核廃絶の悲願達成のために、外務省は一体どれだけ真摯に解決策を模索してきたのでしょうか? 現実は、核兵器削減の国際約束は反故にされ、米国のINF破棄により冷戦の危機が再燃する始末。
あるいは、唯一の戦争被爆国でありながら日本が核兵器禁止条約の批准を拒むのは、核大国の横暴に見て見ぬふりをし、なあなあで済ませて〝共存〟を掲げられるNPTの方が居心地がいいからなのでしょうか? たった30年でしびれを切らして出ていったIWCと違って・・・
~ 外務省の回答 ~
IWCを脱退しても,国際的な海洋生物資源の管理に協力していくという我が国の考えは変わりません。例えば,日本は,IWCと共同で,北太平洋における鯨類の目視調査(IWC-POWER)を実施しています。また,日本は,引き続き南極海及び北太平洋での捕獲を伴わない科学調査を実施し,得られた分析結果をIWCにと適切に共有していくこととしています。このような日本の貢献及び姿勢は,2019年5月のIWC科学委員会で歓迎されました。
引き続き,IWCにオブザーバーとして参加するなど,国際機関と連携しながら,科学的知見に基づく鯨類の資源管理に貢献する所存です。
~ カウンター回答 ~
公海や異なる国々の経済水域をまたがって回遊する鯨類は、国連海洋法条約の下、国際機関を通じて管理することになっており、国際協力が不可欠なのは当たり前の話。
5月のIWC科学委員会で歓迎されたのは、メンバー同士が鋭く対立し、数多くの勧告も出されてきた調査捕鯨を日本が終了し、非致死調査のみ行う旨を表明したから。予算も時間も食う調査捕鯨のレビューも要らなくなったし。まあ、脱退する日本に気を遣ったのもあるでしょうが・・・
重要なのは、日本がオブザーバーとしての〝分を弁える〟こと。オブザーバーの立場で商業捕鯨を実施することが国際法上はたして認められるかどうかについては議論のあるところで、まだ国際司法の判断も下されていないのですから。
~ 外務省の回答 ~
日本が実施する商業捕鯨は,資源量が十分であると確認されている種のみを対象とし,持続可能な形で実施されます。日本の領海及び排他的経済水域に限定し,鯨類の資源に悪影響を与えないよう,IWCで採択された方式(RMP)に沿って算出された捕獲可能量以下で実施しています。詳細については,以下の水産庁の発表をご覧ください。
(http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/190701.html)
~ カウンター回答 ~
回答内容がQ7とほぼかぶっており、無駄な設問。
掲載時点ですでに操業が開始されているのだから、どうせなら、母船式捕鯨と大型捕鯨・小型捕鯨それぞれについて参入事業者が何社あり、どこを拠点にし、どの鯨種を対象にどの海域で操業するかを説明すればいいのに・・・
~ 外務省の回答 ~
日本が設定した捕獲枠は,科学的根拠に基づく資源管理を徹底する観点から,RMPに沿って算出された捕獲可能量以下で設定されました。算出された捕獲可能量は,100年間捕獲を続けても資源に悪影響を与えない水準を維持するものです。また,捕獲対象種の推定資源量の1%以下であり,極めて保守的な数値となっています。詳しくは,以下の水産庁の発表をご覧ください。
(http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/190701.html)
~ カウンター回答 ~
今日では野生生物の保護は種ではなく地域毎の個体群(系群)を対象に行うのが常識。「資源量が十分であると確認されている〝種〟のみ」ではなく、「系群のみ」とすべき。ミンククジラJ系群は主に日本と韓国による混獲が原因で絶滅が危惧され、IWC科学委員会でもそのJ系群を対象とする日本の調査捕鯨に対して懸念が表明されました。
左の回答は「悪影響」と主観の入る余地のある表現ですが、吉川農水相(当時)は記者会見および国会委員会質疑の中で「100年間捕獲を続けても資源が〝減少しない〟水準を維持する」と明言しました。しかし、J系群は捕鯨をしなくてさえ減少し続けている疑いがあり(調査捕鯨の理屈はどうせ減っているのだからたいした影響じゃないというもの)、その場合「減少しない水準を維持する」との約束は守られないことに。予防原則の観点からは、科学委の指摘どおり、最低でも同系群を主な対象とするオホーツク海での操業許可を見送るべき。
また、日本が設定した捕獲枠は、IWCで採択されたRMPを独自にチューニングして算出しており、IWC科学委員会のRMP適用試験の結果より過大になっています。
野生生物は種によって繁殖率や人為的な環境変化に対する適応力が大きく異なり、「推定資源量の1%だから保守的」との表現は科学的とはいえません。外務省の主張を他の野生動物に当てはめるなら、「日本が捕獲するイワシクジラと同じ絶滅危惧種であり、食文化の対象だった事実もあるマウンテンゴリラを年間10頭、ジャイアントパンダを年間18頭、ナベヅルを年間150羽、アマミノクロウサギを150頭~390頭殺すことは科学的に認められるべき」という話に。本当にそれでいいのかどうか、今一度国民に問うべきでしょう。
~ 外務省の回答 ~
いいえ。日本の捕獲枠はRMP に沿って算出された捕獲可能量の範囲内で設定されているため,100年単位で見ても捕獲対象種(ミンククジラ,ニタリクジラ,イワシクジラ)に悪影響を与えません。
国際捕鯨委員会(IWC)では,日本が北太平洋において捕獲する種を含め,特定の鯨種については,持続可能な利用のために十分な資源量が存在することが確認されています。資源量が脆弱であると考えられている鯨種を含め,これら3種以外の鯨類については,国内法令上,捕獲は認められておりません。
~ カウンター回答 ~
上掲のとおり、〝100年安心〟には疑問符が付きます。捕鯨は単なる個体数の減少にとどまらず、種内の遺伝的多様性、社会性、行動習性に変化をもたらす可能性があり、今日の生物多様性保全の立場からは悪影響がまったくないとは言い切れません。餌付けや外来種の放流もそうした理由で問題視されるようになりました。野生動物の絶滅、生物多様性の減少は、乱獲と開発・汚染・気候変動等による生息環境の悪化がセットになり、複合的に作用することで引き起こされてきました。捕鯨は様々な海洋環境の異変に直面する鯨類の〝種としての体力〟をそぎ落とす行為なのです。
「これら3種以外の鯨類については,国内法令上,捕獲は認められておりません」との外務省の回答、ぜひ貫き通してほしいところなのですが……調査捕鯨が廃止されたにもかかわらずそのまま多額の補助金を受け取り続けている共同船舶と永田町の捕鯨族議員の圧力によって、肝心の省令がこの先改正されないという保証はどこにもありません。
実際、共同船舶の森社長は「ナガスクジラを公海で捕獲したい」と発言しており、その前提で大型の捕鯨母船を建造する意欲を示しています。「3種だけ(ナガスは捕らない)」「領海とEEZだけ」はあくまで「〝今は〟」という但し書きが付く話。もし、外務省/水産庁が監督官庁としての責務を果たさず業者の言いなりになり、公海への再進出・捕獲対象拡大という業界の野望から目を逸らすカモフラージュの役割を買って出るなら、それは国民と世界をだます背信行為とさえいえます。
~ 外務省の回答 ~
日本の捕獲可能量は,IWC科学委員会においても共有されている最新かつ最良の科学的根拠に基づいています。その計算にあたっては,我が国が捕獲の対象としている鯨種(ミンククジラ,ニタリクジラ,イワシクジラ)の資源状況(資源量推定・系群構造等)について,IWC科学委員会において積み重ねられてきた議論を十分に考慮しています。
捕獲枠の算出にあたっては,IWC科学委員会にも出席している著名な外国人科学者のレビューを受けています。
~ カウンター回答 ~
この設問もきわめて悪質なミスリード。
日本の商業捕鯨捕獲枠の発表は、Q5の外務省回答にある5月のIWC科学委員会会合が終わった後。反対も賛成もしようがありません。実際にはその前に決まっていたはずですが、会合で俎上に上がるのを避けるべく発表を遅らせた疑いが濃厚。いずれにしろ、日本の捕獲枠はIWC科学委員会のレビューを受けてなどいないのです。
ただし、次回以降の年次会合では、間違いなく物議を醸すことになるでしょう。というのも、「系群構造等について、IWC科学委員会において積み重ねられてきた議論」を考慮していないからです。ミンククジラの多系群問題については長年議論されていますが、科学委で合意には至っていません。イワシクジラについても、今年新たに問題が提起されています。にもかかわらず、日本は捕鯨に有利な仮説を採用し、勝手に捕獲枠を決めてしまったからです。
また、前述したとおり、日本の捕獲枠の数字はIWC科学委員会のRMP適用試験の結果より過大に設定されています。これはいわゆる〝チューニング〟によるもの。当然議論になるでしょう。
ちなみに、日本に協力している著名な外国人科学者とは、やはりチューニングで過大な捕獲枠を設定してNGOから批判を浴びているノルウェーの研究者のこと。
~ 外務省の回答 ~
考古学者によって,9千年前より沿岸域で鯨類を利用してきていることが明らかにされており,2千年前には,西日本で散発的に大型鯨の組織的な捕鯨も行われていた模様です。
現在の日本の捕鯨は,このような鯨類利用の歴史を現代に受け継いでいるものです。
(出典:http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/pdf/140513japanese.pdf)
~ カウンター回答 ~
日本で2千年前に組織的な捕鯨が行われていた証拠は何もありません。外務省の説明はリンクの水産庁資料をコピペしただけなので、デタラメな資料を作った水産庁が悪いのですが・・・
該当箇所は水産庁資料p18。しかし、p22には、1606年に太地に最初の鯨組ができ、「組織的な捕鯨が開始される」とあります。水産庁資料のなんと矛盾だらけなことか……。組織的捕鯨の発祥地という場合、通常はこちら(江戸時代の太地)か、その太地や関東に突取式捕鯨の技術を伝えた尾張(室町時代末期)を指します。
2千年前に捕鯨が行われていたかもしれないと示唆するのは、同じく水産庁資料p22に出てくる壱岐・原の辻遺跡から出土した線刻土器に描かれた捕鯨図。薄い線刻から成るその図柄を「船」と「(銛か槍を突き刺された)鯨」のようだと現代人が推理・解釈しただけ(正直筆者個人はかなり苦しいと思いますが……)。同遺跡からは鯨の骨で出来た骨格器も出土していますが、捕獲したのか座礁したものを利用しただけかは不明。
実は、原の辻遺跡からは朝鮮半島・中国大陸由来の土器・青銅器・通貨等が大量に出土しており、文化圏としてもむしろ中国に近かったとさえいえます。2千年前に中国から日本に捕鯨技術が伝えられたとする徐福の伝説とは符号するかもしれません。なお、縄文人が食べなかった犬も同時代の壱岐では大量に食べられていたことが判っています。
弥生時代の壱岐で船を用いた鯨の捕獲が行われていた可能性はあるでしょう。その際、複数の人間から成るグループで漁が行われたこともあり得るでしょう。しかし、それを「組織的な捕鯨」と呼んでしまうのはあまりに乱暴な話。ライオンやオオカミの狩り、ザトウクジラやシャチの漁も、外務省や水産庁に言わせれば「組織的」なんでしょうか?
水産庁Q&Aカウンター版で示したとおり、日本の近代捕鯨は乱獲と悪質な規制違反の連続でしたが、古式時代から日本の捕鯨は商業的色彩が濃く、発祥地の尾張や関東、太地など各地で乱獲を引き起こしていたことが史料から明らかになっています。その一方で、捕鯨・鯨食を忌避する地方もありました。
こうした乱獲や密漁の〝文化〟を現代の捕鯨産業が受け継いでいるとすれば、それはむしろ批判されて然るべきこと。また、食べない文化だって歴とした伝統文化なのですから、同様に尊重されるべき。食べる文化のみを全国区にするのは〝押し付け〟でしかありません。
縄文時代、弥生時代、あるいは江戸時代に一部の地域で捕鯨が行われ、クジラが食べられていたからといって、現代の捕鯨を正当化する理由にはなりません。人権侵害や環境破壊につながる悪しき因習も歴史さえあれば是とされるのでしょうか? 弥生時代の壱岐で犬が食用に殺されていた以上、現代日本人も犬を食い殺すべきだというのが外務省の主張なのでしょうか?
外務省・水産庁の主張が何より欺瞞に満ちているのは、太地をはじめとする倭人の捕鯨より歴史が長く持続的といえたアイヌの捕鯨が明治政府により強制的に禁止され廃絶に至った事実に一言も触れないことです。これは先住民に対する差別的扱い以外の何物でもありません。
~ 外務省の回答 ~
2018年末以降,複数の世論調査において,回答者の約5割から6割以上が,日本がIWCを脱退し,持続可能な捕鯨を行うことを評価すると回答したことが示されています。なお,当省が2019年3月下旬に行った外交に関する国内世論調査においても,回答者の68%がIWCに協力しつつ,日本近海に限定して商業捕鯨を再開する方針を評価すると回答しています(評価しないとの回答は27%)。
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_007335.html)
~ カウンター回答 ~
日本政府・現政権の政策方針が常に国民の多数派の意見に従っているわけでないのは、原発再稼動や憲法改正の世論調査の結果を見ればわかるとおり。むしろ、選挙の際大きな争点にならないテーマにおいては、国民の感覚とズレている場合がしばしばです。日本政府は沖縄米軍基地移設問題で沖縄の有権者の民意を踏みにじり、TPPや米国との二国間協定に強く反対した多数の一次産業従事者の声を無視したのが実情です。
マスコミや政府機関が実施する世論調査そのものにも問題があります。回答者が調査に応じる時点で、年齢・職業・世帯の構成・性格等の属性と関連する偏りが生じます。また、設問自体に答えを誘導する内容が含まれているケースがしばしば見受けられます。日本捕鯨協会の実施したネット投票や内閣府による2002年の捕鯨問題に関する世論調査などはその典型でした。
では、外務省が回答で掲げた世論調査について詳しく見てみましょう。設問は「日本政府は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を決定しました。今後は、IWCへの協力を継続しつつ、日本近海に限定して商業捕鯨を再開する予定です。このような日本政府の方針をどのように評価しますか。(単数回答)」です。
これでは、有権者が評価したポイントが「IWCを脱退して商業捕鯨を再開すること」なのか、「日本近海に限定した」ことなのかはわかりません。特に33.5%を占める「どちらかといえば評価する」と回答した層には、明らかに「南極海/公海から撤退したこと」の方を評価した人々が相当数含まれていると考えられます。なぜなら、これまでにも国会議員・外務官僚・マスコミ人・科学者から一般市民に至るまで、日本国内の幅広い層から日本の南極海/公海調査捕鯨に対する批判の声があがっており、その主流となる意見は「南極海はやめて沿岸だけにすればいいのに」というものだったからです。
「回答者の約5割から6割以上が,日本がIWCを脱退し,持続可能な捕鯨を行うことを評価すると回答した」との外務省の説明は、事実を一部だけ切り取ってすり替えた悪質な印象操作と言わざるをえません。
付け加えるなら、日本の世論が大きく賛成よりに偏っているのは、日本捕鯨協会とその広報コンサルタントを務めた国際ピーアールが主導するマスコミを抱き込んだ反反捕鯨プロパガンダのおかげといっても過言ではないでしょう。
~ 外務省の回答 ~
IWCでは,半数近くの加盟国が鯨類資源の持続可能な利用を支持しています。日本が唯一の捕鯨支持国であるということは,事実に反しています。
世界各地のいくつかの国・地域でも,クジラの利活用や鯨食の文化・伝統があり,現在でもノルウェーやアイスランドにおいて捕鯨が行われています。各国が設定している鯨の捕獲枠については,以下のリンクをご覧ください。
(http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/190701.html)
~ カウンター回答 ~
「日本が唯一の捕鯨支持国である」との主張は、長年捕鯨問題をウォッチしてきた筆者も一度も耳にしたことがありません。少なくとも、反捕鯨国やNGOでそんな主張をしているところは存在しません。これまたきわめて悪質なミスリード。
外務省の説明を読むと、まるで「半数近く」がまったく日本と同じ主張をしているかのようですが、これも事実に反します。先のIWC総会で日本提案は大差で否決されましたが、反対票が賛成票の1.5倍に上りました。先述のとおり、捕鯨支持国のロシアと韓国は日本提案を棄権。一口に捕鯨支持といっても、それは日本の捕鯨政策の全面的支持を意味しないのです。
「鯨類資源の持続可能な利用」自体は、すべてのIWC加盟国が支持しているといっても間違いではありません。先住民生存捕鯨やホエールウォッチング、あるいは、炭素固定や海洋生産性の増大といった鯨類のもたらす生態系サービスの恩恵を享受することも、立派な資源の持続的利用にあたるのですから。
水産庁Q&Aカウンター版のQ3とQ5の回答も参照。
-日本の水産資源管理はサステナブルか|IKAN (外部リンク)
-調査捕鯨の根拠は支離滅裂──〝美味い刺身〟基本方針案パブコメに意見を!
-海洋プラスチックごみ対策 アクションプラン|外務省 (外部リンク)
-【NGO共同声明】 G20大阪ブルー・オーシャン・ビジョンでは不十分 海洋プラ汚染問題解決に向け2030年削減目標付き国際協定早期発足を要請|GPJ (外部リンク)
-海洋プラごみ問題—G20大阪サミットに足りなかった具体的策とは|サステナブル・ブランド ジャパン (外部リンク)
-海洋プラスチック憲章|JEAN (外部リンク)
-IWCでの妥協案の模索と挫折(1997~2010):決裂は不可避だった のか|真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ (外部リンク)
-国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案|真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ (外部リンク)
-税金でブラジルまで出かけて無能ぶりを晒した捕鯨族議員は惨敗の責任を取れ
-広島・長崎より太地・下関が上、非核平和より〝美味い刺身〟が上──壊れた捕鯨ニッポン
-吉川農林水産大臣記者会見概要 令和元年6月21日|農水省 (外部リンク)
-第198回 参議院 農林水産委員会 国会議事録 (外部リンク)
-新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)・IWC科学委員会レビュー|真田康弘の地球環境・海洋・漁業問題ブログ (外部リンク)
-史上最悪の調査捕鯨NEWREP-NP──その正体は科学の名を借りた〝乱獲海賊捕鯨〟
-「捕鯨の採算性向上、安定供給する」共同船舶・森英司社長|8月1日,日経新聞 (外部リンク)
-共同船舶 大型捕鯨母船建造へ 24年稼働目標 公海のナガスを想定 (外部リンク)
-Annex D Report of the Sub-Committee on Implementation Reviews and Simulation Trials|IWC (外部リンク)
-国際漁業資源の動向 ミンククジラ オホーツク海・北西太平洋|水産研究・教育機構 (外部リンク)
-壱岐・原の辻展示館 (外部リンク)
-鯨供養碑と仔鯨殺しに見る日本人のクジラ観の多様性|Togetterまとめ (外部リンク)
-びっくり仰天、都合の悪い事実に蓋をする非科学的な水産庁広報資料
-乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
-平成30年度世論調査(RDD方式による電話法)報告書 (外部リンク)
-捕鯨問題に関する世論調査 政府広報 (外部リンク)
-真・やる夫で学ぶ近代捕鯨史 モラトリアム発効と「国際ピーアール」の陰謀
なお、国民にデタラメな情報を刷り込んでいる〝本家〟の外務省Q&Aコーナーはこちら