「ビハインド・ザ・コーヴ」の第13回世界自然・野生生物映像祭出品について
2018年4月2日
NPO法人・地球映像ネットワーク 御中
4月2日から8日に東京・富山で開催される貴NPO主催の掲題映像祭において上映される作品の中に「ビハインド・ザ・コーヴ」(八木フィルム)が含まれるとの新聞報道がありました。
貴NPOが同作品を選んでしまわれたことを大変遺憾に思います。
以下にお尋ねいたします。
1. 「世界各国から300本近いエントリーから選び抜かれた」とのことですが、同作品を選定した理由をお聞かせください。
2. 「31作品」とありますが、貴NPO英文サイト上のノミネートリストには30作品しかなく、同作品は含まれておりません。31作品目として同作品が加わった経緯についてお教えください。
3. それらの中でも、同作品が2箇所での上映、監督によるトークショー開催と別格の扱いを受けるに至った理由をお聞かせください。
4. 八木監督のトークショーによって他の上映作品の内容・評価が否定された場合、主催者としての公平性・公正性をどのように担保されるのか、お聞かせください。
5. 八木氏は自フェイスブック上で貴映像祭とBBCおよびナショナルジオグラフィックが協力関係にあると強調し、あたかも自作が両社のお墨付きを得たかのように吹聴していますが、貴NPOは同作品のノミネートを両社に伝えたのでしょうか? また、作品の選定に両社はどのように関わっているのでしょうか?
-「ビハインド・ザ・コーヴ」公式フェイスブック
https://ja-jp.facebook.com/behindthecove/posts/1213599772076110
「ビハインド・ザ・コーヴ」が貴映像祭にきわめて相応しくないと考える理由
1.について
「ビハインド・ザ・コーヴ」は論争の一方の当事者である日本捕鯨協会等の主張そのままに、商業捕鯨を批判してきた国際NPOを「ビジネス」と一蹴しています。
貴映像祭上映作品「ソニック・シー:海の不協和音」(原題:Sonic Sea)は、国際的な反捕鯨運動を牽引してきた天然資源保護協議会(NRDC)及び国際動物福祉基金(IFAW)の協力のもとに制作された作品です。
同様に、「アザラシの運命」(原題:A Sealed Fate)はやはり反捕鯨運動を主導してきた全米人道協会(HSUS)の支援のもとに制作された作品です。
今回の貴映像祭の目玉となっている「100,000年後の安全」(原題:Into Eternity)は、反捕鯨と同時に反核・反原発団体として定評のあるグリーンピース各国支部がイベントで上映している作品です。
「ラスト・ピッグ」(原題:The Last Pig)は、ヴィーガンに転向した養豚家を追ったドキュメンタリーとして、工場畜産とともに捕鯨を強く批判している、動物福祉・動物の権利に関心のある国内外の市民に推奨されています。
「ソニック・シー」は(日本の捕獲対象種を含む)鯨類を取り巻く海洋環境悪化によりまさに鯨類が絶滅の危機に瀕している事実に警鐘を鳴らす作品です。それに対し、「ビハインド・ザ・コーヴ」は絶滅の危機を真っ向から否定する内容となっています。
「ソニック・シー」に「ビハインド・ザ・コーヴ」をぶつけたうえで、後者の監督による一方的なトークショー・Q&Aを行うのは、国際映像祭のあり方としていかがなものでしょうか。
もし、「〝バランス〟への配慮」が理由であるなら、「ソニック・シー」に外務省・水産庁支援の「ビハインド・ザ・コーヴ」をぶつけるのと同様、「100,000年後の安全」に対しては経産省・電力会社の原発・放射性廃棄物処理安全PR作品を、「ラスト・ピッグ」に対しては農水省の畜産振興PR作品を、「ゾウの魂」「スリランカのアジアゾウ」に対しては象牙輸入・加工業界のPR作品を同時上映するのがスジというものでしょう。
2.について
-Nomination for JWFF 2017
http://www.naturechannel.jp/JWFFE/images/2017nominationlist.pdf
上掲のとおり、貴ノミネートリストには30作品しか記されていません。
(ちなみに、日本語サイトのリンクは2015年のものになっています)
300から30を選ぶのではなく、31を選ぶのはいかにも不自然なことであり、選考から漏れた数多くの作品の制作に携わったクリエーターの方々にも説明が必要と感じます。
また、貴プロモーションビデオ「Japan Wildlife Film Festival Opening Highlight for 2018」にはクジラの映像が2回、イルカの映像が1回登場し、「ソニック・シー」の映像を借用されたものと思いますが、「ビハインド・ザ・コーヴ」を同時上映するのであれば非常に大きな誤解を招くでしょう。
同作品の同時上映と監督トークショーについて、「ソニック・シー」の配給元・制作者に事前に説明しないのであれば、映像祭主催者として信義にもとるのではないでしょうか。
さらに、「ビハインド・ザ・コーヴ」は実績のない無名新人の初作品の位置づけですが、モントリオール国際映画祭以降海外・国内とを問わず、品質の低さを(捕鯨賛成派からさえ)指摘されてきました。
残りの270の野生生物ドキュメンタリー作品を差し置いてこの作品がノミネートされた理由がやはり理解できません。
3.について
「ビハインド・ザ・コーヴ」には捕鯨問題とまったく関係のない「原爆」、「真珠湾攻撃」、いわゆるネット右翼にもてはやされる「人種差別撤廃提案」等の描写が盛り込まれており、ナショナリズムを鼓舞する演出と合わせ、国内でも観客の間から「不快だった」という否定的な反応が挙がっています。
また、同作品及びプロモーションにおける八木監督の一連の発言は「阿吽の呼吸」「美徳」といった言葉とともに、日本人・東洋と白人・西洋との異質性を殊更に強調したうえ、「西洋・アングロサクソン(の捕鯨)=悪」と対照的な「日本・日本人(の捕鯨)=善」を賛美するという、単純な図式に当てはめる内容です。
しかし、これは事実にまったく反しています。
洋の東西を問わず、商業捕鯨はまさに単なる「ビジネス」でした。
日本は乱獲でノルウェーに次ぐのみならず、旧ソ連と並び統計データを揺るがすほどきわめて悪質な規制違反を行ってきた国である事実が明らかになっています。
日本の捕鯨業界が乱獲・規制違反の重大な責任を負っている史実を歪め、海外にすべての責任を擦り付けるのは、人種差別や侵略戦争の史実と責任を否定するのに等しい歴史修正主義に他なりません。
また、今問題になっている財務省の公文書改竄と官僚の虚偽答弁ではありませんが、大手捕鯨会社の役員に天下った元水産官僚の米澤邦男氏による、日本の外交公文書に記載された事実に反する嘘を、一切検証することなく、同作品はそのまま流しています。
さらに、同作品の中では、ストックホルム国連人間環境会議において米国が商業捕鯨モラトリアムを提案したのは、「ベトナム戦争から目を逸らすために日本をスケープゴートにする」目的だったとの陰謀論が、2002年BS-TBS放送の「捕鯨論争!大国と闘った男たち」の映像と合わせて紹介されています。しかし、実在する米公文書は極秘ではないうえ、該当する記述は一行も存在せず、悪質な捏造を行っていたのはBS-TBSだったのが事実です。
ベトナム戦争当時、日本は米国を強力に支援したこと、沖縄は枯葉剤備蓄を含め中継基地として利用されたこと、水爆を搭載した艦載機が近海に落下する事故が起きたこと、日本は大きな戦争特需の恩恵を蒙ったこと、「ハノイ 田英夫の証言」で明るみにされたとおり北爆の真実を伝える報道が国内で封じられたこと(当の米国でさえうまくいかなかった政府によるマスコミの報道管制の稀有な成功例)が史実です。
当時の日本政府にとって、米国のベトナム戦争を支援することが国益上最優先だったことは明らかであり、すなわち「ベトナム戦争から目を逸らすこと」は間違いなく日本の国益に適っていました。
つまり、仮に裏付けの何もない陰謀論が事実だったとすれば、日本が国益に照らして自らスケープゴート役を演じたというのが正解のはずです。
もちろん、前掲の梅崎・米澤両氏を出所とする陰謀論が、自己の権益のために戦争の悲劇を利用した捕鯨業界によるきわめて悪質な捏造プロパガンダであることは否定の余地がありません。
一体、わざわざ原爆投下の映像と重ねて「アメリカは原爆を落としたのだから、有無を言わせず南極のクジラを食わせろ」と威圧するエゴ丸出しのプロパガンダ映画が、国際映像祭にノミネートするに適した作品であると、貴NPOは本当にお考えなのでしょうか。
八木氏はまた、昨年京大で開かれたシンポジウムの場で、「韓国はIWCに参加せず」とのでたらめを平然と開陳しました。韓国がIWCに加盟しているのは捕鯨に関心のある層なら賛成反対を問わず誰もが知っている常識です。しかも、進行の問題点を指摘した若い院生の方々にまで噛み付いています。
他にも、「韓国の方が日本よりクジラを多く殺している」という、これも嫌韓右翼が好むデマを出演したメディアで吹聴しています。
ひとつはっきり言えるのは、商業捕鯨であれ、ベトナム戦争であれ、太平洋戦争であれ、国内の在日外国人やアイヌに対する差別問題であれ(アイヌは明治政府によって捕鯨を禁止された)、「日本の加害責任」に対する認識が八木氏には根本的に欠如しているということです。
貴NPOはこうした人物が国際映像祭のゲストとして相応しいとお考えなのでしょうか。
4.について
「ビハインド・ザ・コーヴ」については、新人の初作品であるにもかかわらず、水産庁からプロモーションのための記者リストの提供を受けたり、関係者の計らいで自民党の国会議員(いわゆる族議員)向けの上映会が先行で開催されてきました。
さらに、今年度の外務省の捕鯨対策予算として計上された1400万円の中には同作品の海外上映も含まれていることが水産紙報道で明らかになっています。
5.について
詳細は下掲リンクをご参照。
野生生物保全、国際法、いずれの観点からもあまりに常識はずれで、見識を疑う他ありません。
上掲および下掲参考リンクを踏まえ、質問にご回答いただければ幸いです。
参考資料:
-クジラの陰謀|イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/324-the-whale-plot-j
-妨害対策と国際理解柱 捕鯨関係概算要求で水産庁|みなと新聞
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/72268
-ディスカバリーチャンネルがNRDC-IFAWの海の騒音の映画を放送
https://www.ifaw.org/japan/news/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%81%8Cnrdc-ifaw%E3%81%AE%E6%B5%B7%E3%81%AE%E9%A8%92%E9%9F%B3%E3%81%AE%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%82%92%E6%94%BE%E9%80%81
-検証:クジラと陰謀
https://togetter.com/li/942852
-「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」の嘘を暴く~いろんな意味で「ザ・コーヴ」を超えた〝トンデモ竜田揚げプロパガンダ映画〟
https://togetter.com/li/941637
-「油目的で肉を捨てていた西洋と異なり、日本はクジラを余すところなく完全利用してきた」って本当?
https://togetter.com/li/1012491
-アマゾンDVDレビューコメント
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-デイリー新潮掲載記事『反捕鯨の本拠地で「ビハインド・ザ・コーヴ」が最優秀監督賞をもらったワケ』への質問状
-Protest to Film Festival International UK about the award to "Behind the Cove"
-Ultra double standard of Japan's diplomacy: 100% opposite in nuclear ban and "Favorite sashimi"
-乱獲も密漁もなかった!? 捕鯨ニッポンのぶっとんだ歴史修正主義
http://kkneko.sblo.jp/article/116089084.html
-「ビハインド・ザ・コーヴ」八木監督より〝怪文書〟届く
http://kkneko.sblo.jp/article/180026016.html
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