デイリー新潮掲載記事『反捕鯨の本拠地で「ビハインド・ザ・コーヴ」が最優秀監督賞をもらったワケ』への質問状
2018年3月1日
週刊新潮WEB取材班 御中
3月1日掲載の貴記事『反捕鯨の本拠地で「ビハインド・ザ・コーヴ」が最優秀監督賞をもらったワケ』について質問がございます。
1.掲載日が「2018年2月27日掲載」とありますが、同タイトルの記事が2月27日午前に貴サイトで公開された後、午後には削除され「お探しのページが見つかりません」というアナウンスに差し替えられたことを確認しております。
-削除された同記事URL
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/02271005/
-再掲された同記事URL
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/03010700/
いったん削除した後、2日後に再掲した理由についてお聞かせください。
また、もし変更箇所があればお教えください。
2.記事1頁目7段落に、八木景子氏の以下のコメントがあります。
「その4年後にはオーストラリアから、日本の調査捕鯨は商業捕鯨の隠れ蓑だとして国際司法裁判所(ICJ)に訴えられて、日本に見直しを求めました(編注:その1年後、ICJが示した調査目的の捕鯨が許される条件を満たしているとして、日本は調査捕鯨を再開)。」(引用)
まず事実を指摘すると、オーストラリアがICJに提訴したのは「4年後」ではなく2010年のことで、同政府は数年かけて法的な検討・準備を重ねており、「ザ・コーヴ」の上映とはまったく無関係です。
貴編集部で事実を確認して編注を加えることをせず、事実と異なる情報をそのまま掲載した理由をお聞かせください。
また、八木氏の曖昧なコメントは「オーストラリアが見直しを求めたが、ICJの示した条件は満たしており(違法性がなかったので)再開した」とも受け取られかねないものですが、そのような趣旨であれば、やはり事実に反します。
ICJは2014年3月の判決の中で、日本の調査捕鯨(JARPAII)が国際捕鯨取締条約第8条に定める合法的な調査捕鯨に該当しないこと、同条約附表第10項(d)(e)及び第7条(b)に違反し国際法を破ったとはっきりと認定しています。また、「発給された捕獲許可が科学研究目的であるかは、当該発給国の認識のみに委ねることはできない」(判決文パラグラフ21)、「サンプル数は調査目的に照らして合理的でなければならない」(同22)とも判示しています。同22は、JARPAIIのサンプル数の鯨種毎の相違を日本側が科学的合理的に説明できず、「美味い刺身の安定供給」(~本川水産庁長官(当時)の国会答弁)による恣意的な設定だったと認定されたことに基づきます(ICJ判決文パラグラフ211及び197)。
日本政府はJARPAIIを国際法違反とするICJの判決を受け入れており、1年半後に開始された新南極海調査捕鯨(NEWREP-A)は違法なJARPAIIとは別というのが、あくまで日本政府自身の建前です。
JARPAIIは国際条約上の調査捕鯨ではなかったため、そもそも「再開」ではありません。調査捕鯨に該当しないJARPAII同様の違法捕鯨を「再開」したという批判は厳然として存在しますが。
貴編集部の脚注についてお尋ねします。
「再開」とは、国際条約違反の捕鯨を再開したという趣旨でしょうか? それとも、「もともと違法でなかった調査捕鯨を再開した」という、ICJ判決を認めない趣旨でしょうか? どちらでしょうか?
貴編集部があえてこの脚注を加えるにあたって、どちらに情報を確認されたでしょうか? 水産庁もしくは日本鯨類研究所でしょうか?
「ICJが示した調査目的の捕鯨が許される条件」とは、ICJが提示した条件の「すべて」でしょうか? それとも「一部」でしょうか? 具体的にどのような条件を指しているのでしょうか?(判決文の該当箇所をご提示ください)
ICJが示した条件の中には、上掲した判決文パラグラフ21「発給された捕獲許可が科学研究目的であるかは、当該発給国の認識のみに委ねることはできない」も含まれています。貴記事脚注の表現は同条件をも満たしたものと受け取られかねませんが、その根拠を明示してください。
ICJの示した条件の「一部」のみしか満たしていなかった場合、国際条約違反に該当しないのかどうか、貴編集部の見解をお示しください。
3.記事2頁目7段落に、「ビハインド・ザ・コーヴ」のNetflix発信開始とシーシェパードの活動変更をひとつにまとめる、不可解な記述があります。あたかも、配信からたった3日で同映画のシンパによる抗議活動が全世界で巻き起こり、シーシェパードを追い込んだかに受け取られる珍妙な記述です。
シーシェパード、ワトソン氏自らの発表にもあるとおり、背景にあるのは日本鯨類研究所との米国での法廷闘争、日本側の妨害対策、昨年日本で施行された法律(に対する誤解)であり、同映画の配信にこじつけるのは牽強付会もいいところです。
貴編集部が「配信3日後には、」「そこに今回は、」という明らかに読者のミスリードを招く表現を用いたのはなぜでしょうか? もし、シーシェパードの活動方針を変更させた主因が同映画にあるという具体的な根拠があれば、明示してください。
4.八木氏の英国での映画祭受賞は他の国内メディアも報じています。
そのうち、TBS(2/16)と東京新聞(2/19)は「コーヴがプロパガンダだというなら、この映画だってプロパガンダだ」「コーヴが不公正なら、この映画も同じ」という現地の観客のコメントを紹介しています。
八木氏へのインタビューのみから構成される貴記事は、あたかも「ビハインド・ザ・コーヴ」が英国で好意的に〝のみ〟受け入れられたかのように書かれています。
貴編集部は、現地での反応について八木氏以外の第三者に問い合わせたでしょうか? それをしなかったとすれば、なぜでしょうか?
5.記事3頁目2段落及び4段落に八木氏のコメントが掲載されています。また3段落では貴編集部が以下のとおりまとめています。
感情的にならずに、客観的な証拠を出せば、納得せざるを得なかったのだ。(引用)
実際には、八木氏の同コメントは、日本の調査捕鯨/商業捕鯨再開の主張と直接結び付かないいわゆる〝トリビア〟か、「客観的な証拠」が何ひとつない突飛な主張で構成されています。後者は当事者である水産庁や日本捕鯨協会の見解とは異なる、あるいは捕鯨に賛同する一般の支持者の主張にも見受けられない、一言で言えば支離滅裂な内容です。
とりわけ、「今後の目標は、不条理に制限されているIWCやワシントン条約から鯨を外して、自由貿易を可能にすることです」との八木氏の発言には大変驚かされます。
まず事実を指摘すると、昨年開かれたCITES(ワシントン条約)常設委員会において、日本の調査捕鯨による北西太平洋イワシクジラの海上からの持込問題が議論され、国内メディアでも報じられました。そこで、日本がこれまで多額の水産ODAと引き換えに捕鯨支持を取り付けていたアフリカ諸国も含め、日本が集中的に批判を浴びる形になりました。
八木氏は「不条理に制限されている」と主張していますが、同問題はそもそも日本政府自身による特殊な留保条件に対し、CITESの正規の規定を他のすべての対象種と同等に適用しただけのことであり、従前から国際法学者によって指摘されながら日本政府の圧力によって先送りされてきたにすぎません。
CITESにおいて鯨だけが「不条理に制限」されているとの主張は、報道されている事実や背景、条約の趣旨について何一つ知ろうとしない不勉強な人物の妄言にすぎません。「外して自由貿易を」に至っては、「鯨類は野生生物とみなすな」「鯨のみを差別的に扱え」という主張と同義であり、あまりに常軌を逸しています。
また、IWC(国際捕鯨委員会)から「鯨類を外せ」とは、IWC並びに国際捕鯨取締条約そのものの否定に他ならず、これもナンセンスの一語に尽きます(脱退論であれば以前から存在しますが)。
こうした発言は、日本政府の従来の主張ともまったく食い違うものですが、一方で「ビハインド・ザ・コーヴ」の海外上映の補助に外務省が予算を付けたことを水産紙が報じています。
国内ではあまり報じられませんが、このところ日本はIWC、CITES、地域漁業機関等での国際会議において、北朝鮮を彷彿とさせるほど孤立を深めており、中国と比べても後進性を指摘されるほどです。八木氏の驚くべき発言は、日本に対する信用をますます貶めることにつながるでしょう。
しかし、日本の大手メディアである新潮社が、同映画の監督による事実無根の主張や、政府見解と大きく異なる発言を取り上げたことを、私としては関係各国・NGOに伝え、注意喚起せざるをえません。
貴編集部は「ビハインド・ザ・コーヴ」の海外上映に外務省の予算が付けられたことを知っていましたか?
国際条約・国際機関に対する日本政府の姿勢・国際公約と八木氏の一連のコメントの相違について、貴編集部としての見解をお聞かせください。
6.八木氏の「ビハインド・ザ・コーヴ」には捕鯨問題とまったく関係のない「原爆」「真珠湾攻撃」「人種差別撤廃提案」等の描写が盛り込まれており、国内でも観客の間から「不快だった」という否定的な反応が挙がっています。
そのようなメッセージを捕鯨問題に絡めることについて、貴編集部としての見解をお聞かせください。
日本捕鯨協会の委託を受けてマスコミ記者の懐柔等の世論操作を指南した元時事通信記者の水産ジャーナリスト・梅崎義人氏が同協会にあてたレポート「捕鯨問題に関する国内世論の喚起」をご存知ですか?
その梅崎氏と新宿の鯨肉居酒屋で意気投合したことが映画を制作したきっかけだったと、八木氏本人が明かしていることをご存知ですか?
元IWCコミッショナーで大手捕鯨会社日本水産の役員に天下った米澤邦男氏が、「ビハインド・ザ・コーヴ」の中で日本の外交公文書に記された事実とは異なる虚偽の証言を行ったことをご存知ですか?
同映画の中で、ストックホルム国連人間環境会議において米国が商業捕鯨モラトリアムを提案したのは、「ベトナム戦争から目を逸らすために日本をスケープゴートにする」目的だったとの陰謀論が、2002年に放送されたBS-TBSの番組「捕鯨論争!大国と闘った男たち」の映像と合わせて紹介されています。しかし、実在する米公文書は極秘ではないうえ、該当する記述は一行も存在せず、悪質な捏造を行っていたのはBS-TBSだったという事実をご存知ですか?
ベトナム戦争当時、日本は米国を強力に支援したこと、沖縄は枯葉剤備蓄を含め中継基地として利用されたこと、水爆を搭載した艦載機が近海に落下する事故が起きたこと、日本は大きな戦争特需の恩恵を蒙ったこと、「ハノイ 田英夫の証言」で明るみにされたとおり北爆の真実を伝える報道が国内で封じられたこと、それが当の米国でさえうまくいかなかった政府によるマスコミの報道管制の稀有な成功例であることをご存知ですか?
当時の日本政府にとって、米国のベトナム戦争を支援することが国益上最優先だったことは明らかであり、すなわち「ベトナム戦争から目を逸らすこと」は間違いなく日本の国益に適ったわけで、マスコミ統制を率先した事実がそれを証明しています。事実の裏付けのない捕鯨業界当事者発の陰謀論が仮に真実だったとすれば、日本が国益に照らして自らスケープゴート役を演じたというのが正解のはずです。貴編集部としての見解をお聞かせください。
参考資料:
-JUDGMENT|WHALING IN THE ANTARCTIC (AUSTRALIA v. JAPAN: NEW ZEALAND INTERVENING)
http://www.icj-cij.org/docket/files/148/18162.pdf
-日本の調査捕鯨は違法か:義務的管轄権受諾宣言とNEWREP-A最終案
http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-11-18
-イワシクジラ調査捕鯨が国際法(ワシントン条約)違反認定か?:第69回ワシントン条約常設委員会(2017.12)報告
http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-01-20
-クジラの陰謀
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/324-the-whale-plot-j
-反捕鯨国の英・ロンドン映画祭で捕鯨擁護作品上映(TBS,2/16)
http://news.tbs.co.jp/sp/newseye/tbs_newseye3293779.htm (リンク切れ)
-反捕鯨反論映画に監督賞 八木景子さん (東京,2/19)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201802/CK2018021902000121.html
-妨害対策と国際理解柱 捕鯨関係概算要求で水産庁
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/72268
-「ビハインド・ザ・コーヴ(Behind the Cove)」の嘘を暴く~いろんな意味で「ザ・コーヴ」を超えた〝トンデモ竜田揚げプロパガンダ映画〟
https://togetter.com/li/941637
-検証:クジラと陰謀
https://togetter.com/li/942852
-ICJ敗訴の決め手は水産庁長官の自爆発言──国際裁判史上に汚名を刻み込まれた捕鯨ニッポン
http://kkneko.sblo.jp/article/92944419.html
-デマ屋と化した竜田揚げ映画監督、シーシェパードに代わって独り相撲・その1
http://kkneko.sblo.jp/article/182543414.html
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