ENGLISH

捕鯨論説・小説・絵本のサイト/クジラを食べたかったネコ

── 日本発の捕鯨問題情報サイト ──

指定漁業の許可及び取締り等に関する省令の一部を改正する省令案についての意見

2017年4月14日

水産庁資源管理部国際課捕鯨室 御中

案件番号:550002463

意見:
 指定省令第82条第1項ただし書きに、新たに「しわはいるか」及び「かずはごんどう」を追加することに反対する。

理由:
 鯨類は国連海洋法条約第65条において国際機関を通じて管理する旨定められている。
 カズハゴンドウならびにシワハイルカは日本近海と公海を行き来していると考えられ、また系群構造も不明であることから、とくに国際機関における管理が妥当である。
 両種は生態・個体群動態に不明な点が多いことからも、国連海洋法条約第65条の趣旨に照らして、開発するにあたってIWC、米国等太平洋諸国の協力下でのアセスメントを行わずに、一国の判断で利用を開始するのは早計である。

 概要資料の中で、シワハイルカの日本周辺海域での推定個体数は5,483頭(2014年)とあるが、2006年~2007年の調査による推定値は11,811頭であり、10年に満たない期間に半減している。
 IUCNレッドリストの予防原則の趣旨に則り、ガイドラインに基づき近縁種の世代時間を外挿して基準Aによるカテゴリー判定を行ったところ、線形・指数両パターンで基準A1,2ともCR(絶滅危惧種Ⅱ類)ランクに該当する結果となった。

Calculating result of Rough-toothed dolphin

 日本に生息する個体群として見た場合、シワハイルカは明らかに絶滅危惧種である。
 これが鯨類と同様に国際管理が求められる渡り鳥であれば、渡来数が短期間に半減し、なおかつその原因も究明されていないにもかかわらず、新たに資源としての利用を考えるなどありえないことである。
 系群の分布が日本周辺の外に広がるか、隣接する海域からの移入があるなら、なおのこと国際機関のもとしっかり調査を行い、域外の資源への影響を十分に把握するまで利用を思いとどまるのが、節度ある漁業国の態度である。

 カズハゴンドウについては、2001年に53頭、2002年に85頭、2011年に54頭、2015年に156頭等のマスストランディングがあり、2013年に22件等、単発のストランディングも多い。
 ストランディングの原因は不明であるが、気候変動による海流・水塊の変化に影響を受ける可能性も指摘されている。
 また、ゴンドウクジラ類は社会構造が複雑で種毎に異なる可能性がある。
 複雑な社会性を持つ哺乳類では、性比の偏りや社会行動の変化により繁殖率が低下し、単純な個体数から推測される以上に減少する恐れがあることは広く知られており、IUCNガイドラインにおいても注意喚起されている。
 しかし、水産庁および水研機構の資料を見る限り、同種の社会性に関して調査が行われていないことは明白であり、したがって持続的利用に十分な資源量が確認されたとは到底いえない。
 少なくとも、数年置きに発生しており、今後増加する可能性もあるマスストランディングと、複雑な社会性も十分に考慮に入れた管理方式を別途開発すべきであり、いずれもほとんど情報がない以上、今の段階で利用を開始するべきではない。

 なお、概要資料に「漁業者等からもこれらの鯨種の漁獲枠の設定について要望が相次いでいる」とあるが、「相次ぐ」とは少なくとも次から次へと立て続けに起こることを意味し、それだけの数の漁協が本当に2種の捕獲を求めているのか強い疑問を覚える。
 その要望の切迫性、切実性にもやはり大きな疑問を感じる。

 太地町のイルカ漁業(追い込み)に関しては、今年度の捕獲数は前年度より増加しており、中でも収益の高い水族館向け生体販売の比率が大幅に上がっている。
 既存の対象鯨種の捕獲枠は未消化であり、新たに対象鯨種を追加する合理的理由は見当たらない。

 乱獲に対する自制力を発揮できず、対象鯨種を枯渇させては次々に切り替えることを繰り返してきたのが近代捕鯨の歴史である。イルカ漁業の場合も同様に、有名な太地を例にとれば、静岡から技術を導入した途端漁協間の競争で捕獲数が膨れ上がった経緯がある。
 今回の捕獲枠新設は、そうした非持続性の〝業〟を背負った過去を髣髴とさせる。

 諫早干拓事業、辺野古米軍基地移設、原発立地等をはじめ、沿岸事業者で国策の名のもとに代々続く漁場を手放さざるをえなくなった事例は数多い。また、クロマグロ漁業に携わる沿岸漁業者のように、大手巻網事業者との軋轢・不公平感を抱えながら、資源管理の重要性を理解して減収に涙を呑み規制を受け入れる事業者もいる。

 また、国際法を誠実に遵守する姿勢を内外に示すことや、民主主義の価値観を共有する各国と協調をはかることは、きわめて重要な国策である。

 少なくとも、この省令改正は、水産庁が喫緊に対応すべき、優先度の高い施策であるとはまったく考えられない。持続的漁業の推進を掲げるなら、水産庁にはもっと他にやるべきことが多々あるはずである。

参考資料:
-海洋海洋生物レッドリストの公表について
 整理番号79-81(カズハゴンドウ、マイルカ、ハセイルカ)
 http://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/attach/pdf/20170321redlist-48.pdf
 整理番号85-87(シワハイルカ、カマイルカ、サラワクイルカ)
 http://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/attach/pdf/20170321redlist-44.pdf
-Guidelines for Using the IUCN Red List Categories and Criteria ver.12, 2016
 http://www.iucnredlist.org/technical-documents/red-list-training/red-list-guidance-docs
-Red List Assesment Tool
 http://www.iucnredlist.org/technical-documents/red-list-documents
-ストランディングデータベース
 http://whalelab.org/stranding.html
 http://www.icrwhale.org/zasho2.html
-茨城県の海岸に打ち上げられた多数のイルカと海洋異変について|JAMSTEC
 http://www.jamstec.go.jp/apl/j/column/20150423/
-変容する鯨類資源の利用実態. 和歌山県太地町の小規模沿岸捕鯨業を事例として
 http://ci.nii.ac.jp/naid/120003057536

以上


署名・質問状・パブコメ等

コンテンツ
ページのトップへ戻る