(初出:2008/3)
水産庁の自白前から明らかだった鯨肉過剰在庫と捕鯨協会の偽装工作
※ 水産庁自身が2012年に鯨類捕獲調査改革推進集中プロジェクト(略称KKP)改革計画書の中で「過年度在庫の増加」を〝自白〟したため(下掲リンクのPDFファイルP21)、一部の狂信的な反反捕鯨が唱えていた鯨肉在庫僅少・需要増加説は完全に否定されました。なお、環境保護団体から元水産官僚・小松正之氏まで認めるJARPAⅡ/JARPNⅡ終盤の「減産による在庫調整」、国際司法裁判所(ICJ)違法判決後の〝休漁〟により、2016年時点での鯨肉在庫は1,000~2,000トンの間で落ち着いています。
-鯨類捕獲調査改革推進集中プロジェクト改革計画書|水産業・漁村活性化推進機構
グラフで解る鯨肉在庫のカラクリ
* 鯨食○ボの歌
深まった転売による統計上の在庫量操作疑惑
鯨肉最低在庫の数字はこうして作られた
増産以降不可解な動きを示す鯨肉在庫
増える在庫/消える在庫・鯨肉在庫統計のカラクリを読む
グラフで解る鯨肉在庫のカラクリ
2008年2月19日の朝日新聞にて「鯨肉さばけぬ悩み」と題する記事が載りました(<A記事>)。各地の小売・卸業者などを取材し、国策販売会社が赤字をものともせず様々な〝苦肉の策〟を講じながらも、苦戦しているさまがはっきりとうかがえます。また、今月市民WebニュースJANJANにてさらに詳細なレポートが紹介されました(<J記事>)。なお、朝日の記事掲載後に、その内容をこき下ろす日本捕鯨協会発の〝怪文書〟まで出回る始末・・。綿密な取材に基づくプロのジャーナリストの記事には及ぶべくもありませんが、筆者もこの在庫問題について若干の補足をしておきたいと思います。(以下、<A記事><J記事>の記載から多くを引用しています)
出典:農水省HP、(A記事)、(J記事)
上のグラフは件の鯨肉在庫量を示す農水省の統計を筆者が加工したものです。農水省がWebサイト上で公開している水産物流通統計のデータは2004年2月以降の分で、対前年度比をもとに同年1月以降の4年間の分をグラフ化しています。在庫ではなく月末在庫量-月間入庫量の数字を使用したのは、捕鯨協会側の主張を汲んで供給量の増加分を考慮したため。市場価格の変動等により供給増に見合うだけ需要が増加した場合も、通常在庫量は増えますが、そこから入庫量を差し引いた値は、需給のバランスがとれているなら平衡に達するはずです。が……はたしてどうでしょうか?
赤い実線はこの区間の数値の線形近似値です。やはり年を追うごとに増加していることが一目で明らかですね。2007年の点線で囲んだピンクの部分は、<J記事>にならって2006/07年次操業の日新丸火災発生に伴う減産がなかったと仮定した値です。そして、赤い点線がその場合の線形近似値。もし事故が起きていなければ、在庫の数値がさらに急角度で上昇を続けていたことがわかります。鯨肉の卸売価格が下落の一途をたどっている中での在庫増であることも、合わせて考慮する必要があるでしょう。結論を言えば、紛れもなく供給超過なのです。
もう一点、注目していただきたいのが、黄色い折れ線で示した月間出庫量です。<J記事>に指摘されているとおり、転売による在庫操作が可能なため出庫=実消費量ではないのですが、全体の動向はわかります。これを見ると、奇妙なことに気づきます。ずっと横ばいで推移していたのが、2006/07に突如として出庫量が跳ね上がっているのです。4年間トータルの月間出庫量の平均値の実に3倍。対前年度比を見ると、なんと231%という驚異的な伸び率を示しています。同年の水産物流通統計の中で、ここまで高い数字は11、12月のスケトウダラと12月のその他のイワシ以外、どの品目でも見当たりません。
補足すると、タラコやすり身として需要が高い一方で、公海で既に禁漁となっているスケトウダラは、沿岸でも資源状態が非常に厳しく、この前月にも「捕獲枠削減必至」との報道があったことから流通による在庫確保の動きがあったとみられます。一方、「その他のイワシ」のほうは、もともと浮き魚で資源量の変動が大きいうえ、マイワシの資源量減少と漁獲規制の動きにより、とくに生き餌や飼料用としてのカタクチイワシの代替需要が増したことが出荷増の原因と考えられます。スケトウダラの漁獲枠をめぐっては汚職事件も発生しました。いずれのケースも、日本の水産行政が抱える資源管理能力の問題と直結しています。他の品目は高くてもせいぜい170%どまりです。鯨肉の流通が上記2つのケースとまったく別であることはいうまでもありません。では、この極端な出庫増はどうしたら説明できるのでしょうか?
カラクリは簡単で、2ヵ月前に国策販売会社の鯨食ラボが発足し、すさまじいほどの売り込み攻勢をかけていたのです。大口顧客(病院・学校・自衛隊・社食等、個別の消費者に選択権のない購入先)にお百度を踏み、啓発事業と称して無料試食会を方々で開催していれば、そりゃ販売量自体は増えるでしょう。大赤字になるのも当たり前ですが。共同会社の鯨食ラボは、JARPAⅡに入り捕獲量が倍増したため6千トンを越しかねなくなった在庫を解消するとともに、卸売価格の下落による資金調達難を販売数量増で補うべく、農水省・鯨研が急遽作らせたもの。とくに、JARPA分がさばけないうちにJARPN分が加わってパンク状態になるのを避けることが急務であったため、なりふりかまわぬ販促でこの月231%という空前の数字が達成されたのでしょう。同じ社屋で同じスタッフが運営する共同船舶の広報部といったほうが話が早そうですね。「普及PRで成果を挙げた」などというのは、正規にPR事業として委託しコンサル料を支払った上でいうべきこと。本来の販売事業そっち抜けで規模にそぐわぬ巨額の赤字を出している時点で、会社の存在事態が疑問視されます。<A記事>によれば、PRの中味は「黒いソースをかけて血を隠す」だの、「血の出にくい解凍法を技術開発」しただの、8千年の伝統が聞いて呆れますが・・そこまでやってなお、「新規マーケットの開拓に苦戦している」わけです。自然な需給と価格形成に従い、鯨研と共同船舶が損失を請け負うのがスジのはず。実質的な親会社に奉仕すべく利益を度外視してひたすら販売量を稼ぐさまは、ダミーのグループ持ち株会社に損失を押し付けて業績好調を装った某新興IT企業を彷彿とさせます。この場合、欺いているのは投資家ではなく国民の目ですが・・。要するに、売れていたのではなく、無理(無利)やり売っていたということ──。
続いて、もう一つのグラフをお目にかけましょう。
出典:農水省HP、(J記事)
このグラフは、2004~2007年の鯨肉の月末在庫量の推移に、3つのシミュレーションの結果を加えたもの。ケースA(黄色)は、<J記事>に基づく、火災が起きず2007年度の生産量が前年並だったと仮定した場合。ケースB(紫色)は、ケースAに加え、鯨食ラボによる採算を無視した販促によると考えられる2006年7月及び2007年7月の異常な月間出庫量の突出がなかったと仮定した場合。2006年7月については、残りの11ヵ月分の出庫量をもとに前年度からの出庫量の伸びを計算、2005年7月のデータにかけたものを当てはめ、この月の出庫量を930トンとしています。鯨食ラボが7月以外販促を行わなかったわけじゃないでしょうから、非常に甘い数値ですが・・。2007年7月については、その数字に実際の年間延出庫量の前年度比をかけ、月間出庫量を890トンとして算出。ピンクの実線がケースBの線形近似値ですが、たまる在庫を処理すべく農水省・鯨研・共同船舶がウラで画策を講じていなかったなら、在庫の増加は4年間で3倍を越えるすさまじい勢いで進んでいたことがわかります。
一方、ケースC(青)は、逆に2005/06期にJARPAⅡ開始による増産を行わなかったと仮定した場合。3、4月の入庫を前年と同じとし、7月の出庫もケースBに合わせています。2007年の分は火災事故の減産でほぼ生産量が戻った形になるので、入庫は実数のままとしました。このときの線形近似値が水色の実線。微減というところでしょうか。本来であれば、これが消費の実態に見合った正常な在庫の推移なのです。
実際には、JARPN&沿岸調査捕鯨開始、捕獲枠の上限アップ、イワシとナガスの追加、予備調査での増産と、この10年の間に生産量を漸次増やし、その分在庫も着実に増えてきたため、2004年の時点でも過大だったといえます。逆にいえば、政府側がJARPAⅡに向けて徐々に市場を拡大しようと図っていたことがうかがえます。それらの布石も効を奏せずなかなか消費が上向かなかったため、鯨食ラボを立ち上げ必死のPR作戦に打って出たというのが真相でしょう。JARPAⅠの科学的評価を待つことなく、終了前に予備調査と称して捕獲枠を増やしたのは、増産後をにらんで市場を馴化することこそが目的だったからです。調査の科学的意義・正当性などまったく眼中になかったのです──。
ここで、捕鯨協会発の〝怪文書〟について。
文書中で協会は朝日の記事に対し、「統計には小型沿岸捕鯨等の分が含まれるから正しい鯨肉の年間生産量は6千トンではなく8千トンだ」と言い張っています。しかし、イルカ漁や小型沿岸捕鯨で捕獲されるイルカやゴンドウ、ツチクジラの肉は地元でしか需要がなく、生かタレ(半塩半乾の保存食)の形で消費されるので大型の冷凍倉庫で貯蔵されることもありません。また、同じ水産物流通統計の月末在庫量上位7都市の中にも、産地兼消費地である太地や和田(現南房総市)、網走は登場せず、そもそも統計の調査対象都市に含まれていないことがわかります。函館と石巻(旧鮎川を併合)はリストに入っていますが、この2市は近くに水産物の大きな消費市場を抱える加工・流通拠点であることから、やはりこれらの都市向けの調査鯨肉が大半であるとみられます。上記を考え合わせると、やはり水産物流通統計上の数字はほとんど共同船舶の調査捕鯨によるものと見て間違いないでしょう(沿岸捕鯨の鯨肉生産の詳細に関しては<J記事>も参照)。にもかかわらず、彼らが8千トンと主張する裏には、2006年度の入庫量の年間合計が9千トン近くに上ることがあると見られます。つまり、統計上ですら転売とわかる量が少なくとも年間延2千トン以上あると考えられ、そのことを隠したいのでしょう……。
もう一点、「在庫の数字が常識ハズレだ」という<A記事>中の大手監査法人公認会計士に対する、「流通が他の水産物より多く鯨肉の在庫を確保するのはトーゼンなのだ」という反論について。企業が在庫を持つ経済合理的な理由は、過当競争時を除けば需給のブレに対応し在庫が払底するのを避けることだけです。それ以上に在庫を持ってもコストが嵩むばかりなのですから。ここで問題になるのは、平均在庫もしくは最低在庫(月別入荷・出荷量に大きな差があるケース──鯨肉の場合はこれに該当しますが、出庫量の鋭いピークは在庫消化のため突然出現したものなので入庫量のみ)の供給量に対する比率です。もし、協会の言うように鯨肉の〝特殊事情〟が「年2回の入荷しかない」ことだけを指すなら、この値に他の水産物と大きな違いなど出ないはずです。さて、そこでこちらの表をご覧ください。
出典:農水省HP、(A記事)
これは鯨肉の在庫が最多を記録した2006年の水産物の各品目の月末在庫量と年間供給量との関係を表で示したものです。在庫量のほうは水産物流通統計から、供給量のほうは、水産物の総計については食糧需給表の概数値から、その他は魚種別漁獲量と輸出入概況をもとに算出してあります。クジラは鯨研の発表値。統計によって品目の分類表記が異なったり、上位品目しかデータがないものもあり、冷凍・塩蔵、すり身なども合計しているので、多少大まかな数値と思ってください。
この表で見る限り、在庫量の供給量に対する比率は、加工原料/加工品、輸出入割合の高いもの、季節もの、いずれも水産物全体の値から大きく離れていないことがわかります。スケトウダラが若干高いのは、上記の出庫について説明した理由によるものです。その中で……クジラのみが平均で8割、最低で5割を超えるダントツの数字を示しています。流通市場における鯨肉の適正な最低在庫量は、水産物の平均12%(=供給量の1.5ヵ月分)に合わせれば2006年の場合700トン弱、大甘に見て25%(同3ヵ月分)としても1,400トン程度でいいはず。そして実際、JARPAⅡ予備調査等による増産が始まった'02年までの在庫量は、ほぼこの水準にとどまっていたのです。2006年の鯨食ラボによる異常な販促の効果を勘定に入れたとしても、JARPA分が入庫するピークの4月時に4,500トン(実際の平均値よりも低い)確保さえすれば、小売・消費市場への供給体制としては何の問題もなかったのです。ところが、現状では月平均で(甘い方の)適正在庫の1.5倍に当たる10ヵ月分もの在庫を抱えさせられているわけです。だからこそ、大手監査法人の会計士も「普通の企業としてはありえない」という当然の判断を下したわけです。本来持たなくていいはずの多量の在庫の維持コストを卸売会社が負担しなくてはならない鯨肉市場の〝特殊事情〟とは一体何なのでしょうか?? プロの会計士に向かって「事情を何も知らない」とこき下ろした以上、具体的な理由を明らかにしてほしいものです。
ほかに考えられる鯨肉市場の特殊性といえば、国策企業に大幅値下げさせて卸したものを、転売を重ねることで小売価格を吊り上げ、流通・小売事業者が利幅を増やしてるとか? でも、そもそも売れなくて困ってるから値下げしてるんじゃなかったっけ・・。値上がりを待って在庫を持ち続けても、冷凍設備を動かす電気代も今のご時世じゃ上がる一方で返って損だろし・・。それとも、異文化圏には通じない捕鯨擁護派独特の精神論的文化論でもって、どれほど不合理だろうとひたすら在庫の山を背負っているのかな? 日本から旬を大事にする〝食文化〟が失われておらず、環境負荷を下げる消費者や市場の意識が高ければ、そもそも在庫なんてほとんど要らないはずです。もしかして、明日からクジラが1頭もとれなくなる事態を想定しているのでしょうか? それは流通市場が自ら損してまで心配することではありませんね・・。結局、他に例を見ない莫大な在庫を市場に押し付ける真の理由は、規制を免れるために調査の名を被せた特権的国家推進捕鯨による、国内の需要の実態をまったく無視した強引な増産にあるとしか考えられません。(転売の裏事情については<J記事>を参照)
<A記事>の末尾で、共同船舶の流通関係者は、販売量が年率7%伸びていると伸び率の数字だけを口にし、実数については「どうせ信じないから公表しない」としています。信じられないのは伸び率の数字なのに、実数を隠したらなおさら信用できないでしょう。最近の官僚の不祥事に対する呆れた言い逃れをそっくり踏襲していますね。どうせ伸びたのは、支払いを待たされている鯨食ラボに卸した分だけでしょうけど・・。
そして実際、統計によれば、最新の2007/12の在庫水準は、生産量が7割に落ちたのに対し、対前年同月比で8割5分の下落にとどまっています。鯨食ラボが前年に張り切りすぎてもうすっかり余力がないのか、在庫をこの水準に維持することだけを目標にしているのか……。在庫の底に当たる2月分の数値が出てくれば年間の趨勢がはっきりするので、農水省の発表を待ちたいと思います。果たしてどこまで解消できるのか、それとも積み上がるのか──。
それにしても、文責捕鯨協会の〝怪文書〟、記事そのものを丸ごとコピーして添付しており、引用のレベルを明らかに越えていますが、一体朝日新聞社の許諾をとったのでしょうか? アスキーアートじみた気色の悪いイラスト付きで、「これが問題の記事です!」と丸写しコピペし、「読者をミスリードするタイトル群」と槍玉にあげる内容にはギョッとさせられます。ミスリードどころかきわめて的を射た見出しだったと、筆者などは思いましたけど・・。このヒトたちの思考回路はホント、巨大掲示板に蔓延るネット右翼にそっくりですね・・。このまま放置すると、消費者の鯨肉離れに一層拍車がかかってヤバイという、危機感の表れとの見方もできるかもしれませんが。
最後に、赤字をごっそり背負い込まされても業界存続のために献身する、ある意味健気な販売会社にちょっとは同情して、エールでも送っておきましょうか。というわけで替え歌をば──
鯨 鯨 鯨 鯨
赤いお肉の血の色隠し~
啓発スパーク~ タダ売りだ~
見たか~ 動員~ 鯨食博士~
販促! 販促! 火の車!
産・官・学が一つになれ~ば~
捕鯨ニッポンの正義は~百万パワ~~
悪(環境保護団体)を許すな~ 鯨食パンチ~
鯨食~鯨食~鯨食~~ 鯨食~○ボ!
鯨 鯨 鯨 鯨
たまる在庫が一直線に~
冷凍倉庫~ 満杯だ~
見たか~ 転売~ 鯨肉転がし~
入庫! 出庫! また入庫!
産・官・学が一つになれ~ば~
捕鯨ニッポンの文化は~百万パワ~~
悪(オーストラリア)を倒すぞ~ 鯨食ドリル~
鯨食~鯨食~鯨食~~ 鯨食~○ボ!
鯨 鯨 鯨 鯨
沿岸事業者圧迫しても~
科学の名を借り~ 南極へ~
見たか~ 脅迫~ ザトウを捕るぞ~
再開! 再開! (本音は)現状維持!
産・官・学が一つになれ~ば~
捕鯨復活の建前は~百万パワ~~
悪(アングロサクソン)を滅ぼせ~ 鯨食ビ~ム~
鯨食~鯨食~鯨食~~ 鯨食~○ボ!
ゲット!!
 ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ (´´
▼●▼/) (´⌒(´
⊂【゚Д゚ ⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
ゲット!!
 ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ (´´
/\
〈 M 〉 (´⌒(´
<N=|`Д´∈⌒`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
ゲェェッタァ~~♪
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄
___、 (´´
d----b
П´Д`П (´⌒(´
⊂】■⊂_ (´⌒(´
∈=∈0000)≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡≡
深まった転売による統計上の在庫量操作疑惑
2008年1月分の水産物流通統計が3月10日農水省のサイトで公表されました。早速入手してチェックしてみたところ、鯨肉の月末在庫量は2,832トンで対前月比、前年同月比とも約1割下げており、そこそこ掃けているかのように見えます。このまま推移すると、在庫量が最低になるはずの翌2月には、JARPAⅡによる増産前の2005年の水準を若干下回るかもしれません。
が……よくよく見てみると、2008/1の前月月末在庫量が3,133トンであるのに対し、2007/12の月末在庫量は3,371トンと食い違いを見せています。本来等しくなるはずの数値になぜ200トン以上もの開きがあるのでしょうか? 実は、水産物流通統計の調査対象となる冷凍倉庫が年毎に入れ替わるため、1月~12月までの間はこの数字に差は見られませんが、12月と翌年1月の統計数字にはそれなりの違いが出てくるのです。まさか農水省の統計情報部が対象倉庫変更にあたって捕鯨業界に有利なように助太刀したわけではありますまいが、在庫の数字を低く見せたい業界関係者としては、今回かなり助けられた格好でしょう。このことは一方で、〝見えない在庫〟が厳然として存在することを浮き彫りにしたといえます。仮に、調査対象倉庫が前年と変わらず、比率を同じとして計算した場合、1月の在庫量は3,047トンとなったはずです。
1月分のデータにはもう一点、奇妙な点があります。もし、在庫の減少が需要増によるものであったなら、当然出庫の数字も増加します。しかし、この月の出庫は前月の9割に過ぎず、対前年同月比では半分に満たない4割程度にとどまっています。シーシェパードにさんざん宣伝してもらっても、全然消費者に買ってもらえていないところが印象的ですね・・。では、どうして在庫が減少しているように見えるのかといえば、それは出庫の減少をさらに上回るほど入庫が減少しているからです。2008/1の月間入庫量は109トン、前年同月に比べると1/4、前月比でも1/3と、突出して少なくなっているのです。これは、4年間の統計の中で2004/5及び2005/5の入庫量に匹敵する小さな数字ですが、これらはいずれもJARPA分の入荷直後の5月であり、一年で最も動きが鈍いのは当然のことです。小型沿岸捕鯨とイルカ猟による水揚分がこの統計に乗ってくることはほぼないと見ていい以上、3月、4月、8月以外の鯨肉の入庫は基本的に倉庫間の移動によるものと考えられます。つまり、漁期の生産量が同水準だった一昨年に比べても100トン、増産した昨年と比べた場合350トンにもなる入庫量の激しい落ち込みは、そのまま倉庫間転売量の減少を反映したものといえます。この例年にない在庫の動きは、一体どういう意味を持つのでしょうか?
可能な説明の一つは、統計の調査対象に残っている倉庫から出庫された鯨肉が、今年になって"たまたま"調査対象から除外された倉庫に入庫されたため、入庫として計上されなくなったとの見方。結局、例年どおりに転売されたものが数字として見えなくなっただけで、実際はまったく売れていないということです。調査年に基づく在庫量の食い違いの分を合わせると、まさに二重の幸運に助けられたことになりますが……それはあまりにも不自然すぎます。転売によって統計外へと〝消えてしまう在庫〟の量が、各月毎に入庫の半分から3/4、100~350トンに達するほど大きな割合を占めるケースがあるというだけでも驚くべきことですが・・。
そんな不自然な可能性を排除するなら、残る解釈は一つ、作られた数字だということ──。
輸送経費や代行引受先への手数料等のコストをかけてでも、実際に調査対象倉庫から対象外倉庫へ鯨肉を移送したか、あるいは、伝票上の操作だけで済ませ、現物はそのまま埃を被っているか──いずれにしても統計に表れる在庫量をわざと少なく見せかけようとしたわけです。水産物流通統計は農水省の担当者が一つ一つの倉庫へ足を運んで箱を数えるわけではないので、その気になればいくらでもごまかせるでしょう(虚偽の申告が発覚したとてまともな罰則はなさそうですし・・)。
果たして、捕鯨業界は商法に反するリスクを背負ってまで、事実と異なる在庫の数字をでっち上げようとしたのでしょうか? だとすれば、それはなぜでしょうか? ヒントを与えてくれるのは、他でもない捕鯨協会が発行した〝怪文書〟にあるヘンテコなイラスト付のコメントです。「鯨肉が売れたかどうかは繰越在庫(最低在庫)を見ればわかる(そして売れたのは一目瞭然!)」との──。上記のとおり、他の水産物に比べて鯨肉の在庫は明らかに過分なのですが、業界側は「最低在庫こそが問題なのだ」と予防線を張りました。言い換えれば、「鯨肉が全然売れずに残っているのではないか」とのマスコミの疑惑を回避するためにも、この在庫の最低値を少なくとも前年度並に抑えることが、彼らにとっては至上命題となるわけです。
違法な循環取引、あるいは少なくとも正常とはいえない指導転売による在庫操作は、他の時期にも行われているのかもしれません。特に2006以降の7月の異常な出庫量は、いくら鯨食ラボがタダ同然の叩き売りをしたとて消化しきれるかどうか疑わしいものがあります。翌月にJARPN分が入ってくるので、実際に一次搬入用の大型倉庫を空けはしているのでしょうが、販売会社というより空倉庫の手配のほうが主力業務だったとしても不思議はありません。ほとんどペーパーカンパニーに近い存在ですし・・。しかし、出庫量以上に入庫量を減らす形で数字の"調整"を行うのは、やはり在庫が最低ラインに達する1月2月ということになるでしょう。今回の'08/1分の入庫量の不自然な数字が、そのことを歴然と示しています。
在庫操作のための架空取引の存在を示唆するもう一つの事例があります。3月12日、冷凍食品大手ニチロの元冷凍倉庫所長らが、冷凍庫に豚肉が入っているかのように装って9千万円を騙し取った罪で逮捕されました。詐欺被害に遭った食品卸売業者は名義変更の書類等を信じ込み、倉庫へ実際にものを確認しに行くまで2ヵ月もわからなかったとのこと。同様の手口で複数の業者が被害に遭い、被害総額は5億円(調査捕鯨に対する政府の補助金と同額・・)を越えるとみられています。ニチロ側は「勝手に名前を使われた」とコメントし、この所長を解雇していますが……。ちなみに、元捕鯨会社のニチロはやはり商業捕鯨大手だったマルハと昨年経営統合しています。マルハは共同船舶の元株主で、現在も捕鯨協会や海の幸を守る会などの業界団体と深い関わりがあるとみられます。どこの冷蔵庫に、何が、いつからいつの時点までしまわれているか、いないか、当の倉庫を所有する会社も、買ったと思い込んでいた業者も、いい加減にしか把握していなかったからこそ起きた事件であり、日頃の冷凍倉庫の管理がいかに杜撰に行われているかを如実に示しています。現在はNGOによる抗議行動と海外展開への支障を理由に鯨肉販売から撤退したとはいえ、2つの元捕鯨会社が合併してできたマルハニチロでこの事件が起きたことも象徴的です。ちなみに、冷凍倉庫に〝存在したはず〟の豚肉は1,200トン以上・・。一月分の全国の鯨肉在庫量の4割に匹敵する量が、何枚かの書類で簡単に〝偽装〟できてしまうのです。消費期限の偽装や農薬入り中国製冷凍食品の輸入でも名前の出た加ト吉による不正な循環取引<J記事>と同様の手口が、大手を振って罷り通っていたとしても不思議はないでしょう。
来月発表の2月分の水産物流通統計で最低になるはずの鯨肉の在庫量、筆者としては事前に予想を立てておきたいと思います。すなわち捕鯨業界にとってかくあるべきという数字、月末在庫量約2,650トン、入庫と出庫はそれぞれ200トンと400トンというところでしょうか。出庫が(自然に)どこまで落ちるか、落ちた場合に手間をかけて数字を書き換えるか、1月と同じく気にかけないかは読めないところですが、入出庫差はこれで決まりでしょうね。
しかし、いずれにしても、ここで出てくるであろう数字は、実際の在庫量とは大きく異なるものです。統計に表れてこない在庫が日本全国の冷凍倉庫にたくさん眠っているのだという事実を、私たちは頭に入れておく必要があるでしょう。そして、現状でさえ供給過剰なのに、日本が調査捕鯨の規模を今後さらに拡大しようものなら、何年も前の古びた鯨肉の箱詰めが日本中の冷凍倉庫を埋め尽くす事態になりかねないのです──。
鯨肉最低在庫の数字はこうして作られた
2008年4月10日に2008年2月分の水産物流通統計が農水省のサイトで公表されました。翌月には今年のJARPAⅡの先着分が加わるはずなので、これが年間を通じた在庫の最低値になるはずです。さて、筆者は2650トンと予想していましたが、結果は──2,485トン。一見ずいぶん健闘した感じを受けますが・・月間出庫量の対前年度比を見ると82%。出庫=消費ではありませんから、消費量としては昨年に比べて少なくとも2割は落ちていることがわかります。では、なぜ在庫がこれだけ減ったかと言えば、前月と同じく入庫量が32%とそれ以上に大幅に減少しているからなのですね。1月300トンだった入出庫差が、2月はさらに350トンにまで開きました。ちなみに、先月報じたとおり、調査年度変更に伴う不連続が生じていますから、前年との経年比較のための補正値を加えれば2月の月末在庫は2,700トン前後ということになります。
2月分の統計からは1つ注目すべき発見がありました。統計には在庫量上位の都市のデータも含まれています。鯨肉は生産者も入荷時期も決まっているにも関わらず、なぜか他の品目に比べ年間・月間の各都市の順位の入れ替わりが激しく、それだけ消費より転売による倉庫間移動が多いことをも裏付けているのですが、今年2月分には1つの都市で際立った数値が示されていました。それは、1月から2月までの間に150トンと3割以上も在庫が減少した釧路(順位は3位)です。同じ月でも、1位の在庫量950トンの石巻は80トン、2位の東京都区部は60トンしか出庫していません。昨年同時期の釧路は40トン程度しか動いていなかったのに。
一体釧路で何があったのか? 実は、ここには水産大手ニチロの工場があり、他の水産物とともに鯨肉の大和煮缶詰(都市向けの贈答用なども・・)を製造していました。しかし、この4月にマルハとニチロが経営統合してマルハニチロホールディングスとなり、それに伴って3月一杯で鯨肉製品の製造販売から撤退したのです。ですから、この数字は、旧ニチロが廉売か他社への転売によって在庫処理をした結果と見ていいでしょう。
先月にはまた、例の鯨食ラボの運営するネット通販サイトが閉店セールでまたしても出血大サービス! 販路開拓・・というより在庫解消が任務と思われる同社が、今年の生産分が入ってくる前に何とか少しでも在庫を減らそうと、こうした涙ぐましい努力(?)をしているのでしょう。大手ブランドが軒並鯨肉製品販売をとりやめた今、ネットに集う捕鯨シンパにPRする格好の場を閉鎖してしまうのは、彼らにとってはもったいない話だと思うのですが・・。看板替えするのか、それともラボ自体が相当にヤバイのか・・。
ともあれ、統計のマジック、ニチロの撤退、転売や出血叩き売りの結果、2月の最低値でどうにかこうにか2,500トンを切る数字が達成されたというのが真相です。昨年は火災事故で、今年はシーシェパードの妨害、グリーンピースや豪軍の監視からの逃避で、生産量が落ち込んだ"おかげ"で、在庫の数字自体はなんとか前年より減らすことはできました。捕鯨業界にとっては「シーシェパード様々」というところでしょう。需要を拡大する助けにはなってもらえなかったようですが……。
しかし、来年計画通りの増産を強行すれば、在庫がまた一気に膨れ上がるのはこれらの統計を見ても一目瞭然です。科学的正当性もなく、もともと無理のあったJARPAⅡの計画は早急に見直されるべきです。
増産以降不可解な動きを示す鯨肉在庫
農水省が月毎に発表している冷蔵水産物流通統計は、全国の産地40市町及び消費地14市区町を調査対象とし、これらの調査市区町の主機10馬力以上の冷蔵能力をもつ冷蔵・冷凍工場から、累積冷蔵能力80%に達するまでの工場を選定し、申告された値を集計したものです(現在の対象は651工場)。言い換えれば、主要54都市以外の冷蔵・冷凍工場、主要54都市の冷蔵・冷凍工場のうちの20%の倉庫中にある在庫は、統計に含まれないということです。流通・倉庫会社の工場の新設・廃業・休業等により、冷蔵能力に変更が生じた場合、調査対象倉庫にも入替が起きます。調査対象から外された倉庫中にあった在庫は、この時点で統計上〝消えてしまう〟ことになります。一方、新規に調査対象に加わった倉庫に在庫があった場合は、統計上これまで計算外だった在庫が表に出てくる形になり、見かけ上〝増えた〟ことになるのです。
実際に、2008年1月の鯨肉の前月末在庫量は、2007年12月の月末在庫量と238トンも食い違っています。これが「消えた在庫」。農水省の公式統計は、大雑把な動きを把握するのに役立ちますが、統計に表れないこうした「隠し在庫」の存在までは教えてくれません。
冷蔵水産物流通統計には、対前年同月比(入庫・出庫・在庫)のデータが含まれています。これは、統計表の数字をそのまま比較したのではなく、継続工場分に限った在庫等の前年同月比です。これを仮に対前年同月比Aとします。統計上の数字を用いて計算すれば、調査対象に新規に加わった倉庫・継続倉庫・対象外に外れた倉庫中のその時点の在庫等をひっくるめた対前年同月比の数字が出てきます。こちらは対前年同月比Bとしましょう。
農水省の統計に配慮するかの如く、調査対象外となった倉庫から新規調査対象となった倉庫へと、コスト負担までしてわざわざそっくりそのまま移し変えるという不自然な真似を流通会社がすることは、通常なら考えられません(同じ会社が同等の能力を持つ休止倉庫から新造倉庫へ移すといったよほど特殊な事情でもない限り・・)。ですから、月末在庫量と翌月の前月末在庫量、対前年同月比AとBの間には、調査対象の変更に伴い微妙な数値のギャップが生じてきます。ただ、上掲の統計対象の定義・性質上、継続倉庫と継続していない入替倉庫との間で、在庫量の傾向に大きなバラツキが生じるのも、また考えにくいことです。
そこで、鯨肉在庫の対前年同月比の数値差の謎に迫るべく、入庫と在庫のAとBの間の開きの推移を追ってみたのが以下の表です。
差は対前年同月比B-A、入替倉庫の入庫量・在庫量の増分が継続倉庫のそれを上回っていればプラスに。これは新たに大型の新造倉庫が加わり、調査対象の累積冷蔵能力が増えたような場合。マイナスの場合はその逆で、入替倉庫の数が少なかったり、容量が小さい場合と考えられます。赤字はプラスマイナス5%以上の差、赤字太字は10%以上の差があるもの。
表の左側は、比較対照のため水産物全体の値をとったものです。入庫・在庫ともほとんど1、2%で推移しています。2007年にB-Aの値がマイナスに転じ、2008年にわずかに開きが大きくなっていますが、これは景気悪化による流通業界の整理の動きによるものとみられます。
さて、右側の鯨肉在庫の数字を見てみると、鯨肉生産量が急増したJARPAⅡの初年度2006年末まで、AとBとの差は入庫・在庫ともゼロでした。不自然な前提を排除すれば、鯨肉在庫は継続倉庫のみで扱われていたと考えてよいでしょう。ところが、増産2年目の’07年から数字に変化が表れます。2008年にはこのAとBとの開きがぐっと広がり、水産物全体の値からは大きく隔たった数字となっています。
最も大きい2009年3月の入庫を見てみると、水産物全体では-1%、冷凍ビンナガが-24%、塩蔵数の子が-17%のほかは、数%どまりで、大半がマイナスとなっているのに対し、鯨肉のみ151%というあまりにも突出した数字となっています。同月の在庫も、水産物全体で-1%で、プラスなのはタコの3%など数品目しかない中、鯨肉のみが32%とこれまた異常な数字。
鯨肉の入庫の差がとりわけ多いのは、JARPAⅡ帰港直後の2008年4月と2009年3月。前年の継続倉庫がすべて対象に含まれていると仮定した場合の、入替在庫への入庫の最低量は、2008年で250トン、2009年で560トンという計算になります。
鯨肉の対前年同月比のA-B差の推移を、さらに視覚的にわかりやすいようにグラフにしてみましょう。
鯨肉在庫が2008年から他の水産物とはまったく異なる動きを示していることがよくわかるかと思います。
この不可解な動きは一体何を意味するのでしょうか?
鯨肉在庫の推移が景気動向に完全に連動したものであるなら、継続倉庫と、入替倉庫を含む全調査対象倉庫との間で、さほど大きな違いは生じないはずです。少なくとも、水産物の全体傾向とこれほど有意な差が出ることはないでしょう。
一つの解釈は次のもの。実際には2008年の在庫推移は継続倉庫の対前年比Aのとおりだったが、調査対象外倉庫に消えた在庫があったために、見かけの在庫量を示すBの数字が、2008年はAより平均6%も低い数字になった。そして、2009年には、いったん統計外に消えた倉庫分の在庫がまた戻ってきて、増産分と合わせてB-A間の差が大きくプラスに転じた、というものです。2008年は火災や妨害活動その他による減産続きで、在庫も大きく解消したかのように一見思われましたが、継続倉庫とそれ以外の倉庫の数字の有意な差は、統計外に〝消えた在庫〟のために減少幅が実際より大きく見えていただけだった可能性も捨てきれません。2009年はその分が統計上に復帰してしまったため、2009年4月の最新の在庫の数字では、2年前の2007年同月の4,404トンを約400トンも上回る4,800トンにまで膨れ上がり、元の木阿弥に戻ってしまったと見れば辻褄が合うでしょう。
もう一つ、共同船舶側はJARPAⅡ船団帰港後の一次入荷用に、なぜ従来どおりの継続倉庫でなく、2008年から突然入替倉庫を使用し始めたのでしょうか? これも、継続倉庫中の在庫が今までと異なり1年以上経っても裁ききれなくなったことが、一つの理由として考えられます。
鯨肉在庫の統計上の数字の推移が、意図的な統計操作によるものであれ、調査対象変更時の幸運(2008年の入替倉庫に鯨肉取扱業者がたまたま少なかった)に助けられたものであれ、少しくらい売れているように見えたのももはや気休めにすぎなかったといえるでしょう。鯨肉が日本の消費者に歓迎されていないのは、共同船舶社長ら関係者の証言(『水産界』2009/3号)、マスコミが伝える苦戦ぶりや鯨研の経常赤字幅増などが示す厳然たる事実に他ならないのです。
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